注意:しょっぱなから挿れてます。








「ッ……!!!」

下腹部に押し付けられた熱量には喉を仰け反らせる。そのまま何とか痛みをやり過ごそうと掴んだ相手の腕に爪を立てれば、覆いかぶさった男の喉が掠れたような笑い声を立てた。引っかくようなそのささやか過ぎる声は妙に色気がある。はますます下半身の滑りをよくしてしまう自分の体を呪いたくなった。ぎゅっと唇を噛み、せめて顔が見られぬようにと逸らすのだけれど、そういった恥じらいを許さぬ男、乱暴に顔を向かせられる。

「息を吐け、堪えきれんじゃろう」
「……っ、ぁ……!!!ぐっ…ぅ…ぁ、ッ!!」

言われずともは呼吸をしたかった。けれども絶望的ともいえる体格の違い、それであるのに容赦なく、そして普段以上に膨張した男の欲を捻り込まれては呼吸も困難なほど、苦しい。胸が押しつぶされるような、圧迫感に息を吸おうとしても吐こうとしてもままならない。聊か乱暴に尻を捕まれいっそう深く押し付けられる。みっともなく開いた足はこれ以上は無理だと思うのに相手は考慮しない。ギシッと骨が軋み、一瞬そちらの痛みで腹部の熱を忘れることは出来た。

「は、あ…う、あ……」

言葉を発する気にもならない。意味のない音が喉から漏れ、息を吐ききれば僅かでも酸素は肺に送られる。それで必死に酸素を取り込んでいると、余裕が出来たと取ったのか、サカズキが再び腰を動かす。

「んっ!!!!!!ん、あっ!」

ただでさえ受け入れるこちらの部分は狭すぎるというのに、そんなことお構いなしにかき回された。いっそ普段のように暴力をふるってくれているだけの方がマシだと、は思いながら体を強張らせる。ぐちゃぐちゃと聞きたくもない音が自分の下腹から聞こえた。体だけではなく音でも犯そうというのか。

大きな体の下にの小さな体が押さえつけられている。体重全てをかけられているわけではないものの、その、男の重みがの抵抗力を弱めた。痛みしかない、というわけでもない。手酷い情交であるのは疑うべくもないけれども、その中にも(防衛本能とでもいうのか)確かに快楽が見出せた。痛みを必死に「気持ちがいいもの」と思わねばやってられないと捨て鉢になりながら、は相手の動きに耐え切れず血が流れ下に流れていくのをやけに生々しく感じた。

「ぅ…ぁ……あッ、む、り…!!!サカッ…も……や…!!!」
「無理かどうかはわしが決める。壊れたところでおどれにゃァ意味もねェじゃろう。いっそ耐えるな、壊れちまえ」

堂々と言い切って、の首筋に噛みついてくる。甘く噛むなどという色のある行いではなくて、獣が肉に喰らいつくときと同じ力が込められていた。ぷつっとの首の柔らかな革が裂ける。さすがに薔薇の刻印を直接食い破る気はないらしいが、それでも、ギリギリのきわどいところをへ歯を立てる。カッとの頭に血が上った。もはや痛いのか欲を掻き立てられているのか自分でもよくわからない。

地獄に落ちろ!とは叫びたかった。だが言ったところでこの男は愉快そうにするだけである。それか理不尽にも「癇に障った」とかほざいていっそう酷く扱うだけだ。

はサカズキの腕を掴んでいた手を外し、シーツを掴む。あまり強く爪を立てればこちらの指が火傷することは学習していた。それくらいの思考力は残っている。指先が真っ白になるほどシーツを掴んでいると、サカズキの指先がの鳩尾に触れた。

「どうされたいか言うてみろ」





 

 


ただ一言、いつか教えてください

 


 

 






ぷはっ、とは水の入った瓶から唇を離して、恨みがましい目を向けてきた。

そういう顔をこちらにするということはもう一度押し倒されても文句は言わせないつもりのサカズキであるけれども、明日(正確には数時間後)にはマリンフォードを離れG8支部に定期的な視察に行かねばならぬ。それにも同行させると約束しているので、これ以上無理をさせれば面倒なことになると経験上わかっていた。サカズキはベッドの上にちらばったの服を掴んで集める。

どれも所々燃えていて二度と着ることはできないだろう。こういうとき、の服も自分の服と同じ素材で作っておけばよかったと思うが、仕立て屋が「さんの服を作るのに絹以外は扱いません!!」と断固として認めないのだから仕方ないだろう。

お前がダメにしなきゃいいんじゃねェのか、とクザンがいれば突っ込みをいれたが、サカズキはそういわれた所で「わしのすることに口を挟むな」と堂々とのたまうだけである。

「一回でいいから手加減してよ」

睨んでもこちらが何も反応せぬものだから、がついに口を開く。恨み言、というよりは若干の懇願のようにも取れる。サカズキはふん、と鼻を鳴らし、ベッドの上であぐらをかいた。ぎしり、と軋み、少し離れた場所にいるの体も小さく揺れる。お互い裸であるけれど「今日はここまで」という暗黙の了承のようなものがあるゆえか、はそれほど羞恥心を出さない。それでもこちらの体を見ぬようにと視線を彷徨わせているのは面白い。

サカズキは腕を伸ばしてを引き寄せる。白い体の上にはいくつもの火傷のあとがあった。いっそ醜いとさえいえる、肌の爛れた箇所に指を這わせれば、痛みを感じたのかが嫌そうな顔をする。

「痛いし熱いからヤだって言ってるのに、サカズキって普通のひととでもこんな酷いことするの?」
「ほざけ、一般人相手にここまでするか」

クザンほど遊んでいるわけではないが、サカズキとてそれなりに女性経験はある。を捕らえてからも交際を続けていた女性もいた。悪魔の能力者がこうした情交を交わす際には注意が必要だ。うっかり我を忘れて相手を能力で飲み込んでしまうおそれもある。それゆえ、自然系や動物系の能力者ほど慎重に行動せねばならなくなる。

以前クザンが「何かさー、この能力になってから相手のこと気遣ってばっかで結構辛いのよね」と言っていた言葉を思い出す。あのだらけた男に同調などしたくもないが、しかし、その通りだという思いもある。

相手には加減する必要性もないので手加減はしていないが、しかし、それ以上の理由も、ないわけではなかった。

「おどれの体にゃァこのくらいせにゃ何も残らんじゃろ」

肌を吸い上げて赤く染める程度の痕など、の体には僅かしか残らない。の体はたいていの傷は治るが、それでも炎は回復が遅い。所有の証を刻みたいのなら、圧倒的な熱を押し付けて焼く、というのがサカズキのスタンスだった。

言えばキョトン、とが顔を幼くし、そして眉を寄せる。

「なんじゃァ」
「きみってぼくのこと好きじゃなかったら、ただの独占欲の激しい、心の狭い男だって結果になるなぁって」
「抱いた女に痕を残したいっちゅうんは男の当然の欲求じゃろうがい」

第一は自分のものであるとサカズキは信じて疑わない。その髪も目も指先も何もかも頭のてっぺんからつま先に至るまで何もかもが自分のものだ。そうであるというのに周囲のバカどもが中々諦めぬもので、誰の目にも判るようにマーキングして何が悪い。

は眼を細めてそれを聞き、特に反論するわけでもなくごろん、と寝転がって頭をサカズキの膝に乗せた。真っ赤な髪が太股にあたり、サカズキはその髪を掴んでゆっくりと額を撫でる。ごろごろと喉を鳴らす様子は猫のようである。

「なんじゃァ、機嫌が良うなったが」
「サカズキとするのって、結構痛いし辛いんだけど、ぼくキライじゃないんだよね」

このまま頭を押さえつけて口でさせられたいのかと、サカズキは真剣に考えた。情事に慣れぬわけでもなかろうに、時折はこうしてアホウ極まりない発言をする。サカズキは聊か欲を煽られたが、もう手は出さないと己の中で決めた以上それを破るのが気に入らなかった。いや、しかしにさせる分には手を出したことにはならないだろうか。

そんなサカズキの危険思考などつゆ知らず、は青い大きな目で見上げる。

「喉渇いた」
「さっき渡したじゃろう」
「飲んじゃったよ。脱水症状寸前だったんだから」

一気に水分を取るというのも体には毒である。そう言おうとしてサカズキは今更過ぎると眉を寄せ、もう一つ持ってきていた瓶を渡そうとして、蓋が開いていないことに気付いた。先ほどは開けてきたのだが、ここに栓抜きがあるわけでもない。仕方なしに下の歯で押えて外すとが面白そうに眺めていた。

「なんじゃァ」
「なんかかっこいいね、それ」
「わしはおどれのそういう妙なところに関心するんがようわからんのう」
「前にぼくもやろうとしたんだけど、歯が欠けたよ」

水を飲むためにが体を起こした。さらり、と赤い髪が揺れる。瓶をゆっくりと傾けて妙に美味そうに飲むもので、サカズキはの腕から瓶を奪い、唇を重ねた。

「…んっ。飲んじゃったあとにされても困るんだけど」
「もう一度口に含め」
「直接瓶から飲めばいいじゃん!?」

ストレートに言えば顔が赤くなった。サカズキはとりあえずその反応で満足することにして、に瓶を押し付ける。

そうしている間にも、の体から先ほどの名残が徐々に消えていくのがわかった。酷いやけどの後は残っている。しかし、強く掴んだ指のあとも、何度か本気で締めた首の痣も今はもうすっかり消えている。

何もかもが通り過ぎていくだけだ、と以前アーサー・ヴァスカヴィル卿が「忠告」してきたことをサカズキは思い出した。

『努々、お忘れにならぬように、サカズキくん。さんは【魔女】なのですよ』

すっかり白髪になった頭、皺の増えた顔。それでも妙に貫禄と、そして誠実そうな態度を見せる紳士の言葉。サカズキはあの老紳士が己を憎んでいることを知っていた。それでも、己にこうして時折助言してくる言葉には誠意があった。

こうして組み敷くようになっていっそう、サカズキはがどういう生き物なのかを実感する。肉欲はあるようだ。しかし、それがサカズキの雄に対して女(雌)の欲であるかといえば、そうではないように思われる。何か変わった、一つの児戯のように扱っている。そのことが、妙に心根に引っかかった。

(抱くたびに、乾く)

何度も何度もその小さな弱々しい体に己の雄を埋め込み突き立てても、かき乱して何もかもをぐちゃぐちゃにしても、それでも、の目には表面的な快楽しか浮かばない。それが腹立たしい(そして、根底を探ればもどかしい)のだ。

それで、聊かムキになってを焼く。焼けば多少なりとも、痕が残る。炎をが恐れることはわかっていた。最近はこちらのマグマや炎には慣れてきたが、当初は本気で泣いた。それを思い出し、サカズキはぴくり、と眉を動かす。

「どうしたの?」

それをどう捉えたか、が神妙な顔をして問うてくる。サカズキは目を伏せて答えることを拒み、そのままの腕を引いて自分は背中から倒れた。

火傷まみれの体がサカズキの体に当たる。歪な痕になっている肌は触れて心地が良いものではないが、妙に満たされる。ぐいっと、が胸に乗り上げて、顔を覗き込んで来た。

「サカズキも火傷すればいいのに」
「わしの能力を忘れたか、するわきゃァねェじゃろ」
「何事も可能性を捨ててはいけないんだよ」

ひょいっと、の頭がサカズキの首に埋まった。何をするのか、と怪訝そうにしたが、即座に気付いてサカズキはの首を掴む。

「んっ、ちょっと、ぼくだってたまにはしたっていいじゃん!」
「黙れ!おどれ…このわしに徴なんぞ残せる身分か!」

首筋に吸い付いて赤い痕を残そうとしたらしい。は不服そうに唇を尖らせる。魔女に所有の証を残されることほど不名誉なことはない。サカズキはの頭を軽く引っぱたいて、布団を引っ張った。

もう寝ろ!と強引にを布団の中に押し込めた。暫くはぶつぶつと言いはしたものの、そのうちにほかほかと温度が定まってきたのが心地よくなったか、ぎゅっシーツを軽く掴んだままの瞼が落ちる。それを眺めてから、サカズキはゆっくりと息を吐いて、無駄とわかりつつもの首筋、かつて自分が刻んだ薔薇の上に吸い付いた。


 


Fin


・オチもヤマもないですよ…!!