船長命令
「センゴクくん何してたの?」
処刑台下、瓦礫から這い出てくるセンゴクを見下ろししゃがみ込み、は先ほどの仕返しとばかりに容赦なく罵った。
悪魔かお前、などという突っ込みは生憎不可。の言葉にセンゴクが顔を顰めた。己としてもその失態認めるところなのだろう。ただちょっとに言われるとイラっとくる、というのはありそうだ。このまま放っておけばは次々に容赦ない言葉を浴びせるのだが、しかし、ひょいっとの首根っこを掴んでセンゴクから引き離す者がいた。サカズキである。
「ここから出しゃァせんわい。それでよかろう」
「エースくんとルフィくん、すごく息が合ってるね。クザンくんが行ってるけど、能力的に不利じゃないの?」
は首根っこを掴まれたまま戦場を指出す。自由になった途端、エースの炎が場を完全に支配していた。自由にうねるその赤い炎はいっそすがすがしいとさえ言えよう。力の足りぬルフィをエースが守り、そして二人で船に行こうと進んでいく。隊長たちらも、歓喜して二人の逃げ道を作っている。
悪い流れだ。海賊たちを勢いづかせている。そしてこちら海軍は、未だエースも白ひげも打ちとれておらず、ついにはエースを奪い返された。この戦いの象徴たるエースと、そしてその弟でありドラゴンの息子でもあるルフィが戦場を暴れ、進み、逃げるその勢いが、よくない。海兵たちの間に動揺が走っているのがの目にも良くわかった。
クザンが挑み、氷の雉で阻もうとするがエースの炎とぶつかり合い溶かされている。
「クザンくんもうちょっと頑張ろうよ!!!」
あっさり溶けてしまった氷の巨大な雉には顔を引きつらせて叫ぶ。いや、能力の相性というのは判っているのだけれど、あっさり溶かされるのってどうなのだ。
サカズキを振り返れば少しイラついている。あぁ、きっとこの戦いが終わったらクザンくんはサカズキに氷の強化を強制的に特訓させられるのだろう。自分のマグマでも溶けないくらいになれとか、そういう無茶ぶりをするに違いない。
バキバキと地響きがした。
「おや、まぁ」
「外輪で陸を進んどるようじゃのう」
とサカズキがそちらに顔を向ければ、最後の白ひげ海賊団の船がこちらにむかって突き進んできているではないか。当然、誰かが操っているのだろう。目を凝らせば、そこには見覚えのある顔。大渦蜘蛛海賊団の面々、そしてそこの船長のスクアードだ。
「オヤジ!皆!!逃げてくれェ!!!この戦場おれ達が請け負ったァ!!」
両手に剣を持ち必死の様子。海賊たちがどよめいた。しんがりを務めるその心づもり。明らかに死を前提にしていよう。それだけのことをした、と悔いる様子、言葉が響いた。そうでもせねば気がすまぬのだという言葉に、は首を傾げる。
「スクアードくん一人が死ぬ気なのはまぁ自業自得だし、いいとして、船長だからっていう理由でクルー全員一緒に死ぬ気っていうのはすごいよね」
「だからバカなんじゃろう」
悪魔かお前ら、とそういう突っ込みを誰かしてやってほしい。堂々と外道なことを言い会うとサカズキ。背後で海兵たちが顔を引きつらせようとなんだろうとお構いなしである。
このまま処刑台のあったほうにまで突っ込んでくるか、と思われたバトルシップだが、しかしそれが突然進行を止める。いや、止められた。
++
子供が親より先に死ぬと、三途の川の前にある河原で石を積まされるそうだ。親より先に死んでしまった、親を悲しませたその罪滅ぼしにと石を積まされる。高く積み上げれば川を渡ることが許されるが、ある低ぢの高さになると鬼がそれを崩してしまう。だから子供はずっとずっと、親が迎えに来るまで石を積み続けなければならない。
「子が親より先に死ぬなんてことがどれほどの親不孝か、てめぇにゃわからねェのかスクアード!!」
戦って殺されることも十分辛い。が、自ら命を捨てるような行為。それもこの己のために命を投げるという、そのことが白ひげには認められなかった。
「つけ上がるなよ…!!お前のひと刺しで揺らぐおれの命じゃねェ…!誰にだって寿命ってもんがあらァ……!!」
突き進む船を片腕で止め、白ひげは息を吐いた。目がかすむ。今にも意識が飛びそうだ。だが、まだ倒れるには早い。エースは取り戻した。ここへきた目的は果たした。この場所にもう用はない。
白ひげは腹に力を入れ、一度目を伏せてから喉を震わせた。
「今から伝えるのは最後の“船長命令”だ。よぅく聞け、白ひげ海賊団」
Fin
・短い話
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