午後の中庭、太陽燦々ふりそそぐ小さな庭、少々遅めの昼食を、最近知り合った女性海兵と一緒に食べていて、ふと、気がつく。じっと、女性の首から下を見詰め、そして自分の胸元に視線を移動させる。沈黙。むぅっと、眉を顰めて、手に持っていたサンドイッチを膝の上に置いた。





悩んでいるんです!   編 














「ねぇミホーク、どうすれば胸おっきくなるかなぁ」

くるくると幼い顔が見上げてきたと思ったら、そんな突拍子もないこと。ぶはっ、と、の隣でジャヤコーヒーを飲んでいたドフラミンゴが咽た。

「お、おい、な、なんだァ、突然」
「鳥は黙っててね。ぼくはミホークに聞いてるんだよ」

相変わらず容赦のないS返答。はばっさりとドフラミンゴを切り捨てて、ねぇ、ねぇ、と、ミホークに詰め寄る。冷静沈着、傍観者、何ごとにも驚くことなく悠然と構えて隙のない世界一の大剣豪、先ほどがとんでも発言をかました時に停止したまま、一度こほん、と、息を吐いた。

そしてに視線を向ける。小さな子供。少女の体。ほっそりとしていて、まだ女性特有の丸味を帯び覚える前の体。その胸は当然、平べったい。

「俺は今のお前の大きさで不満はないが」
「幼女趣味だったのか、鷹の目。フッフフフフ、何なら俺のシマのガキの奴隷斡旋してやろうか?」
「いらん」
「だから鳥は黙っててよ」

べしっと、が手に持っていたクマのぬいぐるみをドフラミンゴに投げ付けた。それでどうなる七武海でもないのだけれど、ドフラミンゴは素直に黙る。と、思いきや、器用にするすると気配を消して足音を立てぬように背後から近付く。そのまま後ろから羽交い絞めにしよとしている手を、当然ミホークが黒刀を突きつけて牽制した。

「止めておけ」
「フッフフフフ、邪魔するんじゃねぇよ、鷹の目」
「そういうことをするからに嫌われるんだ」
「テメェにゃ関係ねぇだろ」
「ドフラミンゴ、煩い」

七武海同士の決闘か、とそういうような険悪なムードが一瞬流れたが、そんなもの気にせずゴーイングマイウェイな、ばっさり吐き捨てて、ドフラミンゴに蹴りかかる。普段であればそのかわいらしい、暴力とも呼べぬ弱い蹴りを甘んじて受けて軽い漫才のようなことをするドフラミンゴ、今日に限ってひょいっと、その、の足を掴んだ。

「っ、なにす、」
「フフフッフッフ、胸が大きくなりてぇんだろ?協力してやるぜ?」

掴んだ手とは反対の開いている左手をなんだかワキワキ、と、怪しく動かすドフラミンゴ。はさっと後ろに、ミホークの背後に隠れた。

「お回りさん呼んでこなきゃ!変態がいる!!」
、申し訳ないがここは海軍本部なんだがな」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める二人、それを放置のミホーク、その三人に向かって穏やかな声が掛かる。メェ、と、山羊の声。

「あ、センゴクくん」
「楽しんでいるようで何よりだ。海の屑に遠慮はいらんぞ」

世界でただ一人の元帥、星をたくさんつけた軍服をきっちりとまとい、頭には妙なデザインの帽子、傍らには白い山羊、の、センゴク。は姿を確認してにげら、と笑った。

「よぉ、仏のセンゴクさん。今日はまた粋な計らいをしてくれたそうじゃねぇか」

に完全拒絶されても別にへこたれない、それがドフラミンゴの良いところ、と、まぁ、それはどうでもいい。どっかりとテーブルに座ってせせら笑う。海軍本部に七武海。一応七武海は海賊だ。海軍本部にやすやすと足を踏み入れることなど許されぬ。それが今日、今回、当たり前のように許され、ミホークとドフラミンゴはこの会議室にて楽しくおしゃべり真っ最中。(ちょっと違う
その許可を出したのはこの男。センゴク元帥。ドフラミンゴは七武海入りした時のいくつかの条件のひとつに「定期的にを預けろ」とそういう権利を持ってはいるが、イレギュラーはやはり良いもの。
感謝するつもりはないが、それでも一応礼、というか挨拶というか、そういうものを言ってみた。

「何、貴様らゴミどもにかける慈悲はかけらもないがな。の頼みだ」

が鷹の目にどうしても会いたいと、そう言ったからに過ぎぬ海の屑、藻屑、ゴミ、生ゴミ、と普段どおり容赦のないセンゴク元帥。にっこりわらってにべもない。まぁ、それでへこたれるドフラミンゴではない。普段どおりの笑い声を立てるだけ。

「フッフフフフ、アンタも大概、にゃ甘いな」
「だから鳥は黙ればいいのに」
「そうだな。そろそろ帰れ」

センゴクとの会話にも容赦ないドSのと、畳み掛けるようなミホークの一蹴。後者はどうでもいいが、にされるとちょっと凹む、と、そんなつもりはないくせに一応そういうポーズをドフラミンゴは取ってみて、それでひょいっと、指を動かす。

「っ!?こ、この、鳥!!」
「フッフフフッフフ」

ドフラミンゴが動かすままに、の手が動く。能力発動中、どういう仕掛けか、まだには言っていない。自然系や肉食の動物系意外は魔女との共鳴が薄く、運よくドフラミンゴの能力は「皆無」の部類だった。

「止めないと一生罵るよ」
「いや、普段十分罵られてる気がすんだが」
「それ以上で」

どんだけ増すんですか。生憎突っ込み担当がこの場にいなかったので誰も突っ込まなかったが、そう思わずに入られないほど、あっさり、当然のようには言う。

「そう邪険にするなって、折角手伝ってやろうとしてんのによぉ」
「手伝うって?」
「知ってるか?女の胸ってのは揉むとデカくなるんだぜ?なぁ、センゴクさん」

ニヤニヤ笑いでそういえば、バコン、と、鷹の目に背後からスリッパで殴られた。先ほど黒刀を一度構えはしたものの、基本的に七武海、ここでの争いはご法度。センゴクが目の前にいて騒動など起こせば、今回ミホークを呼んだに害が及ぶと、そういう判断。世界一の大剣豪、どこにでもあるようなスリッパを構えて容赦なく七武海の一角を殴り飛ばした。

「純粋無垢なる幼子に汚らわしい言葉を吐くな」
「い、てぇな。オイ、鷹の目!お前に夢見すぎじゃねぇか!!?」

ばっと、頭を抑えて振り返り、サングラス越しに睨む。鷹の目ミホーク、他の連中と同じようにしっかりに惚れているのだけれど、そのスタンス、というか、手出しのしなささ、あの赤犬に匹敵するんじゃなかろうかと陰口を叩けるほど。だが完全から回ってすれ違いまくっているサカズキとは違い、ミホークは完全に「えぇかっこしい」である。世にに甘い連中は多くいるが、気合の入った馬鹿。砂糖菓子に黒蜜をかけたよりもに甘い。サカズキと違いそれをに分かるようにしているから、も素直に「ミホークはやさしい」とよく懐くのだ。

「なんだ、、そんなことを気にしているのか?」
「そんなことって、センゴクくん酷いよ」
「はは、すまんな。だがまだ成長途中だろう?まだまだこれから体も育っていくはずだ」

そんなドフラミンゴとミホークは完全放置、センゴクは小さなに目の高さをあわせるように腰を折ると、その頭をよしよし、と撫でる。子ども扱いされることがは嬉しい、にへら、と笑って、礼をいう。

「そうかな、うん、そうだといいなぁ」
「丈夫な体を作るには栄養が肝心だ。よし、私がとっておきのものを分けてやろう」

得意そうに言う元帥、はきょとん、と目を丸くして「なぁに?」と、期待に満ちた声を出した。














「と、いうことで貰ってきたの。センゴクくんお手製、ご自慢の山羊のミルクだって」
「……お前は、何をしているんだ…」

話を聞き終えたサカズキは、彼にしては珍しく深い、不快、ふかーい、溜息を吐いた。そりゃあもう、心底疲れきったもの、の悪質な悪戯にも眉を顰めずさっさと処理をしてきた男だったが、さすがに、これは、なんだろうか。
数年前から自分の部下となって、以来の護衛の殆どを任せているディエス・ドレーク中佐の普段の心境はこうなのかと、らしくもなく他人を思いやりたくなった。

くだらない、あまりに、くだらなさすぎる。
馬鹿だ。馬鹿、馬鹿だとは思っていたが、海の屑ども、まさかここまで馬鹿だとは。
不敬ではあるが、センゴク元帥も一体何を考えているのか。

「……くだらんことに元帥を巻き込むな」
「巻き込んでないよ。センゴクくんが話しに乗ってくれたんだよ」

一応普段どおりにそういうことを忠告、というか、咎めてみれば、はけろりとしている。自分に非があるときは素直に認めるが、確かに、今回の場合は、まぁ、微妙なところ。サカズキはこのままいつもどおり頭でも蹴り飛ばしていいものかと、少々悩んだ。

海軍本部大将赤犬。信じる正義の「行き過ぎ」には定評があり、保守派の過激派に多大な人気を誇る海軍将校。常に真っ直ぐ前に進み躊躇うことのない男を、こんなくだらぬこととはいえ悩ませている、さすがである。

しかし当人そんな自覚も、つもりもなく、テーブルの上に置いたガラスのコップに、なみなみと白いものを注いでいく。

どうやら件の「山羊の乳」と、そういうものらしい。全く、センゴク元帥は大将であったころからに甘い。しっかりと容赦のなさを持っているはずなのに、どういうわけか海の魔女にはめっぽう甘いのだ。孫娘か何かじゃあるまいし、と、サカズキは再び溜息を吐いて仕事を再開しようとペンを取った。

「…うぇ」

カリ、と、一文字書ききるか書ききらぬか、の時。妙な声が耳に届いた。

「……どうした?」

無視、することは容易い。この今のところの状況からいってもまずろくな事ではないだろうが、聞こえた声は奇妙な「苦しみ」を含ませていた。なら放っておくことができなくて、しょうがなく顔を上げて、問いかける。

真っ赤なソファに腰掛けていた、口元を片手で軽く押さえて、苦々しい表情。

「……まずい」
「……だろうな」

山羊のミルクなど、普段愛用しているセンゴク元帥ならともかく、常日頃口当たりの良い甘いものやさっぱりとしたものを好んで口に入れているが飲めるはずもない。サカズキも若い頃センゴクに半ば強制的に飲まされたことがあるが、大将になってからはその大将の地位「有事に腹痛では話になりませんので」を理由に事態しまくっている。あれはまずい。はっきりいって、かなり覚悟がいる。その上、は元々牛乳が苦手だ。

「返して来い」
「……ヤだ」
「では責任を持って最後まで飲め」
「……うん」

まずはコップについだ分だけでも処理して、あとの残りは考えようと、そういう算段か。は神妙な顔(これのこんな真剣そうな顔は久しく見ない)をしてコップを持ち上げた。ふるふると、小さく震える手、カタカタとコップまで小刻みに揺れるが、それでも冷たいガラスがの赤い唇に触れて、傾く。

「……け、ほっ、う、……ぇ」

一度は口に含んだものの、けほ、こほ、と、拒絶反応、唇から僅かに垂れる。白い液。

「まずい……にがい…えぐい」

咽ながらはそれでもサカズキに「責任を持て」といわれた以上コップを放さない。うぇ、と、情けない声を上げながらも二口、三口、と量を減らそうと試みる。薄っすら目じりに生理的な涙さえ浮かんでいる。

その様子をじっと眺めていたサカズキ、やおら立ち上がって、長い足をすたすたと進め、ソファに寄る。そのままひょいっと、の手からコップを奪い取った。

「諦めろ」
「一生トリプルAカップなんてヤだ」
「今更外見などに拘るような生き物か」
「サカズキにはわかんないよ、乙女心」
「そんなもの分かりたくもない。第一、貴様は死体だろう。成長するのか」

原点である。一応、真相はともかく400年前に死んだ少女の体を借りている。それが嘘か本当か、それはサカズキにはどうでもいいのだが、とにかく、時間が止まっている、ということは確か。今更栄養価の高い、といっても、ただの山羊のミルク如きで、千年の暗黒の知恵をどうこうできるわけもない。

「わかんないじゃん、気合があれば大きくなるかもよ?」
「気合なんぞでどうにかなってたまるか。とにかく無駄だ、無理だ、諦めろ」

可能性が限りなくゼロに近いもの、これが正義やら犯罪の絡んだことであればサカズキとてその僅かな可能性を諦めたりはせぬのだが、いかせん、問題が、くだらなさ過ぎる。

「胸の大きさなどで女性としての品位が上下するなど、さもしい考えだな」
「サカズキだって女の子になったら分かるよ。やっぱり自分の理想の大きさってあるんだよ」
「生憎私は男だ。今後女になる予定もない」

グランドラインのとある島には飲めば性別の反転する泉があると、そういう話は聞くが、まず自分は怪しい水を口にしたりはしない。の悪意の中にそういう類のものがあったとしても、自分に向けた瞬間サカズキは容赦なくを蹴り飛ばすつもりもあった。

きっぱりはき捨てると、が悔しそうに唸って、そしてサカズキを見上げた。じっと、見詰める青い目。

「サカズキは背も高いし、顔も格好いいし、声も綺麗だし、手だって大きいからコンプレックスなんて一つもないだろうけど、でも、古今東西自分の体っていうのは万人の悩みの一つなんだよ?」
「………」

説得、するように眦を上げて強く言う。それでもやっぱりばっさりと「諦めろ」とか、または「いい加減にしろ」と蹴られるかと、そういう覚悟もあったのだけれど、おや、と、はサカズキが沈黙したので首を傾けた。

「サカズキ?」
「……要は、乳製品を摂取できればいいのだろう。―――待っていろ」
「え?え、え?」

困惑するなどお構いなしに、サカズキは部屋の扉を開けてさっさと出て行く、そそしてそのまま、足音さえ立てずに気配が遠ざかってしまった。

取り残された、はて?と、首をかしげる。今のの説明に納得してくれた、ということか。どういう風の吹き回し、あのサカズキが、信じられない、と、ぐるぐる、その裏にはどんな企みがあるのかと悩んで身構えて、堂々巡りになっていると、サカズキが戻ってきた。

「あ、サカズキ、おかえり」

早いね、と、それだけ言ってソファから立ち上がる。その胸元に、ひょいっと、サカズキが何かを投げてきた。

「う、わ?」

突然のことだったが、受け止められぬこともない。見事にキャッチ、両手に収まった掌ほどの大きさの。紙パック。

「うん?」
「それなら貴様にも飲めるだろう」

渡されたパックにリンハは視線を落とす。ピンクのパッケージに、赤い文字と赤いイラスト。

「いちごミルク、って書いてる」
「食堂で売っている」

基本的に、海軍本部にいるときはサカズキと昼食を取るので海兵たちが利用する食堂を使ったことがない。行ってみたいなぁ、とは思っているのだが、サカズキが作るお弁当よりおいしいものなどこの世にないと分かっているのだから、ただの興味はあっさり捨てるのだ。
だが、思えばサカズキは昔はただの階級もない海兵だったこともあるはず、食堂を利用したこともあるのだろう。

「貰っていいの?」
「私は飲まない」

一言、それだけ告げて、サカズキは再び執務机に向かう。そのままがじぃっと視線を向けて何かいいたそうにしていても、話しかけるな、とそういう態度。お礼を言いそびれた感はいなめず、は、んー、と首を捻って悩み、取り合えず真っ赤なソファに腰を下ろした。ぱふん、と、柔らかなソファが沈み込みの身を受け止める。

そのまま紙パックの背についているストローを刺し口に刺して白いストローを伸ばした。こういうものは、実は口にしたことがない。おっかなびっくり、恐る恐る、と言ったように口をつけて、ストローを吸った。

「……あまい」
「そうか」

サカズキが書類から顔を上げずに呟いた。無視、はしないでいてくれるらしい。どうやら機嫌がいいらしいと、長い付き合いで知っている。なぜ機嫌が良くなったのか、の検討は付かないが。

「ねぇ、これも牛乳だよね?飲んだら効果あるかな」
「知らん。だが嫌いなものを無理に飲むよりはマシだ」
「うん、そうだねぇ」

ごくごく、と、はよほど気に入ったか嬉しそうに笑いながらのみ、ソファの上で足をばたばたっと、揺らす。

「うん。これなら平気。サカズキ、ありがとう」

お礼を言って、顔を向ける。サカズキが顔を下げたところだった。ということはこちらを向いていたのだろうか。、きょとん、と一度首をかしげるが、まぁ、それは別に、気にすることでもないだろう。

「目指せ蛇姫」

それはどうあがいても無理だろうと、さすがに、そういう突っ込みはしないサカズキ。とりあえず黙っておいて、カリカリとペンを進める。傍目には普段どおりの仏頂面だが、それでもクザンあたりが見れば機嫌の良いのが一目瞭然。それで、その原因を暴く、だなんて無粋なことはしない。そんなの、いつものことである。

ちなみにセンゴク元帥ご自慢の山羊の乳は、その後サカズキが直々にセンゴクに返却した。「(私は)飲めません、(も)飲みません」と念を押して却下され、センゴク、さすがに自覚があるのか落ち込んだだけで何も言わなかった。
普段元帥に敬意を持って接するサカズキも、今度ばかりは、さすがに容赦なかった。



Fin


 

寝ようとしたら、こんな妄想が膨らんだのでとりあえず書き溜めてみました。
誤字が多すぎる。

(08/12/18 2時10分)