*こっからの話には、その他ヒロイン部屋の「
詩人ヒロイン」と「マルコ夢主
」が登場します。
理由はあとがきで!
白ヒゲの起こした大津波を左右に受けながら、クザンは隣に目するサカズキを横目で眺めた。全く動揺も、感情も表わさぬのはいつものことだが、しかしこの状況、もう少し、何か言ってもいいのではないかと恨みたくなった。
いや、別に白ヒゲとの戦争についてうんぬん、ではない。のことだ。この状況で大将がただの少女のことを考えるなど不謹慎極まりない、と言えばそうで、公私混同はせぬサカズキが一切を切り捨てている、と言えばそれまで。だが、のことだ。言えば、世界の果てのこと。敵のこと。たとえばこの戦争でが白ヒゲについたなら、どうなるかなど、考えることは多くあるだろう。
はサカズキから離れてドフラミンゴを選んだように、先ほどは思えた。だが、遠目で見えた、ドフラミンゴの隣に、今はいない。気配を辿れば、この図上、処刑台の、エースの近くにいるようではないか。センゴク元帥がいるのだから、どうにかなってしまうこともないだろうが。しかし、普段のサカズキであれば、ここで突然席を立って、を縛りつけてずるずるとここに引きずってきただろう。そして何事もなかったように、また椅子に座って黙していただろう。
それなのに、この落ち着きようはなんだ。に対し、一切の無関心。
押し寄せる津波を脇目、クザンはただただ、部外者であると突き付けられる、疲労感。疎外感。を大切に思う心は、サカズキだけではないのだ。クザンだって、を大切にしている。少しでも、できることがあればしてやりたいのに、サカズキの徹底した秘密主義。に関する情報を過去サカズキから聞き出せたのは、ドレークのところの魔剣嬢のみである。その彼女が海軍を辞してから余計に、一層、サカズキは誰にもを任せることをしなくなった。同僚である、クザンにさえも、だ。
クザンはこの戦争、それは、もうどうしようもないことと受け入れている。殺し合いがあるだろう。世界がひっくり返る。あんまり、望んだ展開ではないが、だが、大将だ。クザンは戦力として戦う。それは、いい。それは、かまわない。
何があろうと、クザンは自分が大将であるのなら、それに相応しい振る舞いをするし、この戦争、勝つつもりで挑む。
だが、どんなことがあったとしても、は、そしてサカズキは、あの二人だけは変わらず、この後も、そして、そのずっと後も、いつまでも、二人で「お前らさっさと結婚しろよ!!」と叫びたくなる関係、続けて欲しいと、そう思うのだ。
「なぁ、サカズキ。お前がそんなんだから、が愛想尽かしちまうんだよ」
短く呟いて、クザン、溜息一つ椅子から立ち上がり、サカズキが何か言う前に上空に飛びあがった。この津波、自分がどうにかしなくて、このまま放っておいて、何もかも海に沈んだら、それはそれで世界はどうなるのだろうか。
(能力者ばっかだしねぇ)
それでも大将である以上、クザンは放ってはおけぬ。昔、本当に昔、まだただの若造で、階級もなくて、サウロと見た夕日を思い出す。何の責任も義務もなかった。その時、見た夕日。今のの髪の色によく似ていた。
クザンの脳裏に、の顔が浮かぶ。いつも世に飽いたような顔をしていた。はいつもそういう顔をしていた。けれどたった一度だけ、クザンはの泣いた顔を見たことがある。サカズキが自分以外には見せようとしなかったので、かなり貴重一時。
あの時の、の泣き顔が、今瞼に浮かんでしょうがない。声を出さずに、歯を食いしばり、小さな手で何度も何度も目を頬を擦り泣きじゃくっていたを思い出す。体を震わせぬように強張らせて、唇を噛み締めて、耐えていた、の小さな姿。あんな姿、もう二度と見たくはない。
の身に何が起きているのか、クザンは知らない。わからない。だが、この戦争が終わって、に何があるのだとしても、それでも、の帰る場所がなくならない限りは、元に戻るような気がした。
(大丈夫だって、。俺がお前さんを悲しませる、この戦争を終わらせるよ。俺は大将だけどさ。でも、お前さんがまたサカズキの隣にいられるように、今を守るよ)
声高く、高く、高く響く、響く
クザンの氷河時代によって、大津波が氷りついた。頭上に出来た巨大な影に顔を上げ、はきらきらと太陽の光、受けて輝く氷のオブジェに目を見開く。
いつもだらけきった態度の青雉が、いの一番に動いた。こういうのは好戦的なボルサリーノかと思ったが、適任と言えば適任。そして上空に上った青雉。それで終わるはずもなく、そのまま白ヒゲめがけて氷の矛を繰り出した。
けれど白ヒゲの大気の振動でそれはあっさりと砕かれる。「あらら」と悔しさなど全く感じられぬ気の抜けた声を上げて、白ヒゲの反撃により、クザンの体が砕けた。パラパラと破片が落ちて、海に沈む前に、海面上で再び形となった氷の能力者。触れた指先が、湾内を凍らせる。
「やる気なさそうで、しっかりやることやってるクザンくんは面白いねぇ」
船の動きをちゃっかり止めたクザンにはころころと称賛を送りながら、その目はまっすぐ、モビーデイック号を見つめている。先ほどから、に向けられる敵意。誰のものだ?白ヒゲ、ではない。それに隊長達も、違うだろう。
動きのとれぬ船に向かって、海軍の砲撃が開始される。それに怯むことなく、むしろ足場ができたとばかりに、隊長らが出陣してきた。その一人一人の顔を見つめ、記憶しながらも、しかし、己に向けられる殺気の主がわからない。気の所為、なら面倒がなくていいのだが、はっきりと、に、この、悪意の魔女に向けられる敵意、殺気は、どういうことだろうか。はきょとん、と首を傾げる一方、戦況も注意深く観察してはいた。
動きのとれぬ海賊船、それでもこちらにむかって砲弾が撃ち込まれる。その砲弾を斬り伏せたのは、飛び出してきた、正義のコートを靡かせる、海軍本部が誇る「中将」たちであった。
「いっつも思うけど、海兵ってどう見てもヤ○ザにしか見えないのが将校になれるの?」
ドン、と並ぶ中将殿。普段はあちこちに散らばっている中将がこんなに揃うことはめったにない。バスターコールも真っ青の顔ぶれである。その中に、おつるもいた。は目を細める。おつるは作戦参謀で、確かに特出しているのはその頭脳。だが中将である。弱いわけがない。だから心配はしていないのだが、彼女の目に時々ふらっと、よぎる静かな色がはたまらなかった。出来れば彼女は、安全な場所でじっくり作戦でも錬る場所があればいい。だが、海兵であること、そして中将であることを止めぬおつるが、それを受け入れるとは思えない。
中将らと隊長たちの戦闘、そして駆けだした海兵、海賊らの戦闘があちこちで開始される。薙ぎ倒して、殺して、進め、進め。声高らかに上げて、戦争がはじまった。
「……とうとう、始まったな」
感慨深いのはだけではない。エースの絶望の目、そして、センゴクの、静かな声が処刑台の上にひっそりと、残る。
言葉を失くしたエースを、は振り返る。それで、ただ一言、微笑みながら、告げた。
「君の所為だよ」
はあどけない目で、真っ直ぐにエースを見つめるため、ちょこんとしゃがみ込んだ。呟きながら、夕日の髪を爆風に靡かせて美しい顔に笑顔を浮かべる。エースの目が見開かれた。背後ではセンゴクがじっと、とエースを見つめている。はそれらには一切構わずに、言葉を続けた。一言一言が、茨の棘。相手の臓腑に巻きついて、引けばズタズタに破ける。それだけの悪意をはらんでいることは、承知。けれど、それがどうしたというのだ。
「君の所為だよ。君の身勝手さが、こんな破滅を呼んだの。エドワードくんは、何も悪くないよ。悪いのは、君だよね」
ころころと鈴のような声を転がし、呟く。おかしくてたまらぬ、笑い声が溢れる。腹を抱えて今、手でも叩いてやりたくなった。エースがきつく、を睨む。が、を見つめた途端、エースの瞳からに対する憎悪が消え失せた。
「……」
「きみの所為で、たくさんの人が死ぬね。自分の所為で、千の絶望が生まれるのは、初めて?大丈夫、甘い毒を食みながらゆるやかに眠りにつかされるような、吐き気があるだけ。涙が枯れ果てて、喉が潰れて、笑い声しか上げられなくなるだけ。あまりに恐怖が強すぎて、何が怖いのかもわからなくなるだけ。大事な人が自分の目の前で血まみれになって動かなくなるだけ。その死体が無残な骸になって駆ける足の踏み台にされるだけ。笑い合った仲間の体が欠片になって散らばるだけ……自分の所為で、そうなっても、それでも、それだけのことだよね…?」
「…!!!」
聞いていられず、エースは頭を振った。の声は、エースへの嘲笑ではなかった。その言葉、今にも泣き出しそうだった。唐突に、エースには思い出される。いや、これまで知りもしなかった。だが、今、知った。この小さな少女の業。の所為で、目の前で失われた大量の命。積まれた躯。ゴルゴダの丘。だが、誰も彼女を責めなかった。今の、エースのように。
の言葉は、エースに向けられただけのものではない。それが、わかった。エースにはわかって、しまった。
「百万人が「お前の所為じゃない」って、そう言ってくれても「お前は何も悪くない」って言ってくれても、でも、本当は、全部全部、」
「もう止めろ!…!!」
聞いていられなくなってエースが叫ぶ。すると、きょとん、とが口をつぐんで、幼い顔をする。あどけない少女のように、それで、ふわり、とエースに向かってほほ笑む。先までの泣き出しそうな顔は、露のように消えた。それで、じっと、エースを見つめたまま、穏やかな声で告げた。
「だから、君は苦しんでね。自分の所為でこんなことになったって、突き付けられて、それで、お願い、できれば、死んで。そうしたら、ぼくは、そうしたら、ねぇ、あの時誰にも殺されなかった自分が殺されるところを重ねて描けるね」
囁くよう、甘やかな微笑み。それで、ぞっとエースが背筋に走る悪寒に耐えているのを見守ることもせず、は立ち上がり、モビーディック号を眺める。
そしてそのまま、おもむろに、弓を構えた。
リリスの弓に弦も矢も必要ない。ただ撓った木を持ちかまえるだけのような、悪意のしわざ。見えぬものを張って、の指先がから、赤い閃光が巨大帆船に向かって放たれた。空を斬り裂き、大気を抉り、突き進む、矢。
白ヒゲは旧知の仲であるから、直接手を下すことはしなかった。だが、他の連中に容赦はせぬよ、と知らしめるだけの一撃。あの船を沈めるつもりの、の言って。
が、しかし。
「……おや?」
ぴくん、との眉が跳ねる。の放った一閃が、マストの上の人物によってはじかれた。それで消えるようなものでもないから、軌道を変えられた矢が隣の船を沈める。その、マストの上には二人、人がいるようだった。は目を細め、そして、驚く。
「……驚いた、魔女が二人もいるよ?センゴクくん、知ってた?」
センゴクを振り返ったが、元帥も知らなかったようだ。マストの上に立ち、長い銀髪を靡かせる、目を血のそまった布で覆う、長身の女性と、猫のような癖っ毛をふわふわとさせた、片手に分厚い本を持つ、女性。それぞれ、には面識もある。
「ごきげんよう、悪意の魔女どの。お久しぶりですね、海軍本部。懐かしい顔ぶれを再度この目に刻めるなど、思いもよりませんでした。けれど、これも運命でしょう。あとはノリが半分」
猫のような癖っ毛の女性、手に持った本を閉じずに、優雅に微笑む。そのアメジストの瞳。首元につながれた鎖の跡。は眼下のボルサリーノが飛び出した音を感じた。
光とともに、飛び出したボルサリーノが、容赦なく光の閃光を降り注ぎ白ヒゲに攻撃を繰り出した。素早い動き、白ヒゲは動じることなくただ眩しいと目を細めただけだ。
その黄猿の攻撃をすべて受けたのは、飛び出した一番隊隊長、マルコであった。青い炎を身にまとい、シャボンディではルーキーたちが手も足も出なかった、大将の攻撃を防ぐ。
「オォオ〜、怖いねェ、白ヒゲ海賊団」
全く脅威を感じているようには見えぬ顔でボルサリーノは呟き、マストの上の、癖っ毛の女性を見上げる。懐かしいものを見るような、愛しいものを見るような、そんな一瞬のまなざし。女性が緩やかに目を伏せ、一度ボルサリーノに頭を下げた。だが、それだけである。それっきり、互いに視線を外し、黄猿はマルコにむきやって、そして女性は傍らの、盲目の女性とともに、飛び出した。
は腕を振ってデッキブラシを取り出すと、それに跨り、向い来る二人の魔女に矢を放つ。
「稀有な能力、この世に5種類しかない、マジョマジョの実!モデル「カッサンドラ」と「ペルル」が、揃って捕まりに来るなんてね!」
さぁ、魔女の舞踏会でも始めようか
Fin
あとがき
いや、さんと戦える人が欲しかったので…。他家とも考えたのですが、黄猿とかとの因縁もある詩人ヒロインと、さんと因縁のあるマルコ夢主でいいかなぁ、と。一人だったらいくら魔女でもさんとやりあえるとは思えないので、二人にしました。
こういうのがあんまり好かれないことはわかっているのですが・・・!!
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