「へぇ、フラミンゴって飛べるんだねぇ」

感心しながら、は当たり前のように着地したドフラミンゴを見上げた。自分をしっかり抱いて放さぬかと思えばそうではなくて、ドフラミンゴ、オーズからの一撃を受けたその瞬間、を処刑台の方へ投げ飛ばしたのだ。よくもまぁ、余裕があると嫌味の一つでも言いたい。確かに、今一番安全なのはセンゴク元帥のそばだとにもわかっていた。ドフラミンゴが、何やらやる気を出しているのなら、そばにいるべきではない。巻き込まれることは、自分に限ってはないけれど、しかし、平気で酷いことをするドフラミンゴだ。見ていて楽しいこと、はしないだろう。

傍にいろ、と言った端からこの仕打ち。だから、バカ鳥なんだとは罵りたくなった。頭の良い男だ。意地を張らない。ドフラミンゴに、底意地はない。あるのはただただ、冷静なもの。好戦的でありつつも、どこまでも、どこまでも、冷静だった。

それにしても、ここは人の叫び声がここはよく聞こえる。ついっと、は下の戦場を見下ろした。人が人が、面白いまでに死んでいく。海賊にしても海兵にしても、も見知った顔がいくつかあったが、それが地に伏せるまでそれほど時間はかからなさそうだ。あっさりと人は死んでいく。ここまでくれば、こういう状況になってしまえば、強い者が生き残る、というわけでもなくなる。天分だ。生き残れるのは、そういう、ただ、運という、天分になる。

どうしようもないことが、ついに、どうしようもなくなった。は顔を顰め、笑いたいような、妙な心が沸いてくる。あぁ、そうだ。そうしていれば、ガクガクと体の震えが始まってきて、なんだかもう、慣れてさえくるのだから、どうしようもない。

怖いのだから、しようがない。しようのないことばかりだ。

オーズの子孫が崩れ落ちる。無残に、見るも無残な躯になるのだろう。モリアーがきゃっきゃとはしゃぐ声が耳に障った。

「……エース…ぐん…」

大きな人間が、あっさりと死んでいく。悲痛なその、搾り出すような声にはただただ、呆れることしかできないのだ。
どう見ても、今のオーズは無駄死にではないのか。いや、戦争、いや、そもそも、人の死に意味などない。あるように見えたり、あるいは思われたりするのは、後に残されるしかない人間が勝手に「そう」と決め込んだだけだ。結局、人は平等に死ぬのである。

オーズが、前に前に勝手に進まなければこうはならなかった。けれど、進まずにはいられなかったのだろう。それはわかる。それは、にもわかった。

(だからこそに、くだらない)

助けたい人の前で、無茶をしてどうなるのか。頭を冷やせ、どうしても、我慢できないことなどこの世にあるものか。結果のために、手段を選ばないのが当然だ。何もかもを、己の心を押し殺してこそに、どうしようもないことを、どうにかすることが、できるのではないのか。

処刑台の真下に着地して、はオーズの身体を見下ろした。

白ヒゲの一味に、一瞬の沈黙、後悔、悲しみが走っている。それが充満したところで、長くは続かぬ。殺し合い、殺し合い、初めての、目の前での見るも無残な結果がそれぞれの前に突きつけられて、いっそう火力を増すばかり。それならオーズの死に意味があるのかと、は皮肉めいてみたくなる。そう、やはり残った人間が、勝手に気ままに判断することだ。

(人は、死ぬんだよ)

おや、と、は小首を傾げる。三大将の大きな椅子はそのままに、けれど、最後の一人、残っていたはずのサカズキの姿がない。別に、会いたいわけではないのだけれど、どこへ行ったのか。クザンは最初の攻撃を仕掛けて以来、の視界には入ってこなかった。まさかあれであっさり死んでいるとか、海に落ちてます★とかそういう展開はあるまい。サカズキの火山弾に当たって溶けました☆ならは腹を抱えて笑ってやる。

「というか、三大将が出払ったらここ誰が守るのっていう原点?」

ひょいっと上を見れば、オーズの酷い有様を目前に突きつけられて真っ青になっているエースが見えた。傍らに立つセンゴクと眼が合ったが、何も互いに口を開かなかった。

それにしても、エースのその、顔。おやまぁ、とは微笑む。

(君の、そういう顔が見たかったんだよ、ぼくはね)

絶望に、絶望に、打ちのめされる顔である。自分の所為で、自分の大切な人ばかりが死んでいく。無関係な、まるで係り合いのない人間が殺されてもいく。自分の大切な、人によって。どうしようもない。どうすることもできない。ただただ、眺めていることしかできない。次第に声も枯れていき、眼がつぶれてくれとさえ願いたくなる。顔を伏しても、耳が悲鳴を聞き取ってしまうのだ。何をかもを覆っても、悲劇を容赦なくに突きつけられる。その絶望がどれほどのものだろうか。思えば、この、おかしくて手を叩きたくさえ、なる、この、状況。が声を上げて喉を震わせた途端、ぐいっと、首を、掴まれた。

「笑いながら、泣くんじゃァねェ」






 

輝きが何れ衰えても

 

 

 

 

 



『なぜ、の手を握り返さないのですか』

この期に及んで脳裏にちらついてきたのは、数年前、この己を恐れることなく真っ向から向かい合ってきた、ディエス・ドレークの言葉であった。そうして、思い出すたびに、苛立つ。

あの、真っ直ぐに過ぎた男。今は海の屑、海賊になど成り下がったが、しかし、あの男が海賊になんぞなれるわけがないのはサカズキが一番良くわかっていた。ディエス・ドレーク。今は赤旗とそう呼ばれるあの男は、真っ直ぐに過ぎた。若い頃、まだサカズキの配下になる前から、あの男は「あぁ」だった。

『愛して、いるのではないのですか』

ディエス・ドレークは、正義の尺度を、己の心でしか測れない。政府が、世界が、「これが正しいのだ」と提示したそのままを飲み込めはしない。海兵であるのなら、提示された尺度で、己の正義を貫くべきだった。少なからず、何を守らなければならないのかの、世界の共通点がなければ正義は守れない。それなのに、あの男は、そうではなかった。たとえ世界が「悪」だとしていることであっても、己の心がそうでなければ、ディエス・ドレークは、その小さな悪を守ろうとすら、したのだ。

サカズキは、これまでに対して誠実ではあった。だが、慈悲深かったかといわれれば、そんな必要がなかったという前提はあるにしても、首を振るしかないだろう。

そういう、サカズキのに対する扱いを、ディエスは苦悩に満ちた目で眺めていた。いつも自分と、を見つめていた。どうすることもできないのかと、その眼が問うてくるたびに、サカズキは苛立って、わけもなくを殴り飛ばした。

しかし、自分との間にあるものは、その、最初は何だったのだろうか。もう二十年以上前になることだ。サカズキは、はっきりとは覚えていない。出逢った時のことは今でも覚えているのに、自分が、に抱いていた感情の、その経過を、どうしても思い出すことができなかった。

憎んで、いたはずだ。

世界の敵、悪意の魔女、悪の定義、正義の裏側。呼び方は何だって良かった。ただ、海兵である自分にとって、という生き物は、殴り飛ばし、その心に一切の、喜・楽を感じる隙を与えるべきではない。生まれてきたこと、生き続けていることを常に後悔させて然るべき、罪人だった。
海賊王の処刑から、その後、続いたロジャーの関係者への容赦のない処罰に、悪意の魔女が含まれていなかったことがサカズキには不服であったから、その分の憎悪もあったのかもしれない。その眼に絶望を突きつけて、声を枯らす程に泣き叫ばせることが、道理だと、そう、考えていた。

だから、出会い、捕らえてからの数年、サカズキはに対して、考えられる限りの暴力を加えた。から血の匂いが耐える事がない数年、傷が消えることがない数年。呻く声や、顰められる顔しか記憶になかった、数年。

だというのに。

(……馬鹿らしい)

ため息しか、出ないといえば、出ない。何をどう間違えたのか、全く持って、気に入らぬといえば気に入らぬ。の、あの、幼い顔をして平気で世に悪意をばら撒く、あの魔女。

(愛しているなど、馬鹿らしい)

そんなはずがあるものか。

なぜ、愛さねばならぬのか。いや、あれを愛する理由はある。悪魔の能力者。自然系は、魔女の飢餓を経験する。その苦しみから逃れるために、魔女を愛する。そうすれば、それが道理となれば、心が少なからず救われるという。サカズキが、を愛してしまう道理は、確かに底にはあるようにも、思える。

だが、しかし。

サカズキは、飢餓がなかった。を目の前にしても、組み敷いても、餓えを覚えたことがない。募るのは「世界の敵」に対する、海兵としての敵意のみだ。に憐憫を覚えたことも、ない。

(愛したところで、どうする)

そして、仮に、自分がを「愛して」いるとして、それがどうだというのだろうか。それでも、自分は海軍大将であり、は世に悪意をばら撒く魔女である。が、いや、その、夏の庭の番人が、どういう生き物であるのか、おそらく自分はよく知っている。とても、よく、わかってしまっている。
その上で、あれを愛して、どうするというのか。

愛すれば、何か変わるのか。愛していると、ささやけば、どうにもならぬことでさえ、どうにかなるというのか。

サカズキには、判っていた。はっきりと、判りきっていた。
は今日、死ぬのだろう。いや、もうずっと前に死んでいた。千年前に、井戸の中、折り重なって死んでいた、双子の片割れ。死ぬ、という表現はふさわしくはなかろう。しかし、まぁ、他に適切なものも見当たらぬ。

が、今日、この世から消える。

サカズキがを愛したところで、どうだというのか。それが、止められるはずもない。

これまで、サカズキは、ありとあらゆるものから、を守ってきた。いつのまにか、害せねばならぬはずの、を、守っていた。

愛して、なんになるというのだ。

そんなことをしても、を救えはしない。
手を伸ばしても、届かぬのだ。差し出された手を、握り返して、なんの意味がある?

ならば、せめて、これまで、いや、今日この日まで、サカズキが出来たことは、「今」を続ける。ただ、それだけだった。

最初から判り切っている事だった。自分に、あれは救えない。どうしようもないことだった。それを、冬薔薇を得た、その日から、突きつけられていたはずだ。

人智を超えた化け物の宴。所詮人であり続ける以上は侵入不可能な領域。どうすることもできぬ呪い。自分に出来ることはただ、傾き続ける冬天秤。その右皿を沈ませぬことだった。

何も迷わず、恐れず、怯まず、揺るがず、愛さず、慈しまず、憐れまず、失くさず。

ただ、が恐れる、夜が来ないように、を愛さずに、いることが、たった一つできることだった。

(わしは何も、間違えてなどいない)

が死んでも、パンドラ・。世界の敵が存在する限り、正義は揺らがない。サカズキには、何の影響もないことだ。サカズキは、これまでどおり、世界の敵を不可侵のものとすればいい。ではなく、パンドラ・を、そのように扱えば良い。何も、問題はない。

それなのに、サカズキは今、目の前に現れた、その、小さく震える肩を見て、咄嗟に、その首を掴み、引き寄せていた。

「笑いながら、泣くな。この、バカタレ。ド阿呆。怖しいっちゅうんなら、そう言やァえぇじゃろうに、泣くんじゃァ、ねェ」

細い首を乱暴に掴み、小さな体を、腕の中に収める。びくり、と、の身体が驚いて固まった。未だ戦場、ひっきりなしのこの状況。いくら、注意が他に向けられるとはいえ、大将としてふさわしい行動ではないと、即座に切り捨てるべきだった。だが、放さぬ。放せぬ、らしい、その自分にサカズキは苛立つ、と同時に、妙な安堵さえ、覚えていた。

ここ最近、心底気に入らないことが多くあった。

暫く姿を見せなかったが、よりにもよってあの海の屑の手を取っていたことや、自分の目の前で始終イチャつかれた時など、本当どうしてくれようかとすら思った。サカズキ、視力はとても良い。聴覚も人一倍という自負があるが、視力も随分良く、たとえ処刑台の真下で座り込んでいても、湾内に構えたドフラミンゴの傍らでが素直に身を委ねているのがよく見てとれた。

全く、上にセンゴク元帥がいなければ、うっかり七武海(特にドフラミンゴ)めがけて大噴火を2、3発やってしまったかもしれないというほど、気に入らなかった。

にどんな事情があろうと、そうすることがいま最も、相応しいのだとしても、気に入らないものは仕方がない。

それでも、感情で動くサカズキではない。いくら「灰にしてやりたい」と心の底からドフラミンゴに殺意を抱いていても、傍目には全くそうは見えないように装うなど朝飯前である。その上、貴重な戦力の七武海を、捨て駒にもする前に失うのは馬鹿らしい。あとで海に叩き落とすのは確定としても、今はまだ、放っておくべきだと、堪えていた。

しかし、今、目の前でこうして、を、手を伸ばせば触れられるほど近くに見て、どういうわけか、これまでの苛立ちも何もかも、一切、どうでもよくなってくる。いや、あの海の屑は後でどうにかするという決意は変わらないが。

ドフラミンゴがをこちらに投げてよこした。その意味がわからぬサカズキではない。ドフラミンゴは、何も知らない。が「何」なのか、これからどうなるのか、おそらく、何も知らぬのだろう。知っていておかしくはないのだが、知らぬのだ。それでも、を、あの男はどうにかして救いたいと、守りたいと、そう思っているらしかった。

それで、自分ではなく、サカズキに投げてよこした。自尊心がないわけではないだろうに、なりふり構わず、サカズキなら「何か」できるのではないかと、そういう、僅かな可能性。あの馬鹿な七武海は、のためなら、なんだって、堪えるのだ。

そのことにも、サカズキは苛立つ。なりふり構わぬ、その、見苦しさ。どうしてできるのか。救えないのだ。は、もう、どうすることもできない。それなのに、まだ、何とか、できるのではないかと、諦めない、その、思考がどうしようもなく、サカズキには、不愉快だった。

腕の中にを収め、その、長く伸びた髪をうなじからゆっくりと、梳く。革の手袋を嵌めたままだというのに、するすると、滑り落ちる。戦場に漂う、土煙、血の匂いではない、慣れ親しんだにおいがする。眼を細めて、サカズキはゆっくりと、ため息を吐いた。

……どうせ、完全に手に入れることが出来ないのなら、いっそ開き直ってもいいような気がしてきた。

サカズキは乱暴にの首を掴み、自分に引き寄せると、その目から溢れている涙をぬぐった。全く、あの海の屑は何をしているのか。が傍にいるのなら、その目に、その心に悲しみを一滴でも与えるものではない。それさえできないのなら、己はには全く持って役不足だと恥じ入ればいいものを。

(何もかもが忌々しい)

そんな、クザンでもいれば「……はい?」と真顔で唖然とされるに違いないことを堂々と考えながら、サカズキはぐいぐいっと、手袋をはめた指での眼尻を押える。

「え、ちょ、ちょっと!!痛い、革で擦れて普通に痛い!!!何するんだよ!!」
「黙れ。殴り飛ばされないだけ感謝しろ、このド阿呆」
「阿呆とか言った!!!?このぼくに!!!放してよ!!っていうか、なにこの状況!!」

もっともらしい突っ込みも、サカズキは普通に無視する。ここで騒ぐのもバカらしいものだ。それで、これから行われる作戦の準備もあるということで、サカズキはぐいっと、の腕を掴んでその場から離れた。

「何!!?ちょっと、放して!ぼくに、触らないでよ!!」
「喧しい。少しここを離れる。貴様も来い」
「何で!?ぼくはドフラミンゴのそばにいたいの!!戻るんだから、放してよ!!赤犬!!」

このバカは殴り飛ばされたいのだろうかと、サカズキは一瞬真剣に考えてしまった。この自分の前で、そんなことを言って無事に済むと、これまでの経験でわからないのだろうか。やはり阿呆か、それでなければ極度のMかと真面目に同情の目を向けると、そういう心中がわかったか、が怒りで顔を真っ赤にさせてくる。

「こ、このぼくを…モノみたいに扱うな!!!第一、ぼくはもう君のものじゃないんだから!冬薔薇の戒めもなければ、君の言うことを聞く理由なんて……!!」

真っ赤になって、怒りで目を潤ませた顔はどう贔屓目に見ても、口付けされたいとしか思えない。それで、周囲に海兵もいないのをしっかり把握した後、遠慮なく口付けた。

「んっ…!!んんっ、やっ!!」
「黙れ、この大バカタレが」

びくり、との体が震える。こちらの行為のためだけのものではないだろう震えも確認し、サカズキは眉を寄せた。よく見れば、顔色も悪い。普段口付ければ真っ赤に染まる頬も、今はやや、朱が指す程度だ。戦火の轟きがどれほどを怯えさせるのか、あのバカ鳥はわからないのか。はただでさえ臆病だった。強気に振る舞ってはいるものの、その心が酷く、幼く、踏み込まれることを恐れていることを、少しでもを思えば気づけるはずだ。ディエスがそうだった。いち早く、が本当は、どんな生き物であるのか悟り、的確な対応をしていた。あの男が造反さえしなければ、まだマシだったかもしれないと頭の隅で思う。ディエス・ドレークが今なおまだ海兵のままであれば、こうはならなかったのではないだろうか。今となってはどうしようもないことだが。

サカズキが震えを押えるように背を撫で、腰を抱くと、次第にの体が大人しくなっていった。それで顔を放すと、が体の力を抜いて、その場に崩れ落ちる。腰でも抜けたのかと眼を細めてサカズキは、の腕を掴んだ。その顔を覗き込む。顔から火でも吹いたように真っ赤になったが、視線を合わせぬように横を向いたが、許すサカズキではない。ぐいっと、顎を掴んで自分の方を向かせると、そのまま、はっきりと聞こえるように告げた。

「忘れたか?貴様が誰を選ぼうと、何があろうと、何を捨てようと、貴様の心からなる髪、目、腕、脚、その全てがわしのものじゃろうに」

ちらり、と見れば、その小さな体の至るところに、自分には覚えのない紅い所有の徴が付いている。ここで服を剥いで全てつけ直したい欲求に駆られたが、そういうわけにもいかない。

それにしても、なんというか、これはもう、開き直った方が面倒がないような、そんな気がしてきた。

を愛そうが、愛さまいが、もうは、どうしようもない状態になっているのだろう。背から眼には見えぬ傷、血が流れてしようのない状況。眼は奈落の底のように、どこか暗く夜の気配がする。

だが、しかし、だからなんだというのだろうか。

サカズキ、妙にすっきりとしてきた。こうなってしまったら、そうだ、もう、どうしようもないらしい。それなら、もういっそ、自分がを諦めても、諦めなくとも、構わないのではないか。

サカズキはの頭に付けられている薔薇を取り、くしゃり、と握りつぶす。には薔薇が似合うに決まり切っているが、自分が選んだものでなければ、鬱陶しいだけである。青い目が驚いたように見開かれ、そして、左手が振りあげられた。

の平手打ちなどまるで痛みはないが、しかし、受ける義理もない。ぱしんっ、と振りあげられた腕を掴むと、青い目が睨みつけてきた。

「どうせ、君は全部知ってるんでしょう!!ぼくがどうするのかも、どうしたいのかも、全部わかってるんでしょ!!!君にはもう関係ないんだから、だから、放っておいてよ!!!」
「貴様が姉を殺したいとしていて、それをわしが奨励するわきゃァねぇじゃろう。放っておきゃァおどれ、今日死ぬじゃろう。わしの許可なく、そんなことが許されると思うちょるんか」

きっぱりと、言い切る。無駄だとは、判っている。だがしかし、なぜこの自分が、の思い通りにさせなければならないのか。

「意味わかんないんだけど!!!?ぼくは悪意の魔女だよ!!?もう主でもない、ただの大将風情が口出しできると思ってるの!!!?」
「わしが貴様に口出しできんわけがない」
「〜〜〜!!サカズキは関係ないんだから、ぼくが好きなのはもう君じゃないんだから、放っておいてよ!!!」

呼び方が戻っている。サカズキは指摘してやりたかったが、そうなれば今度は本気で殴られるだろう。死ぬために、自分の体を傷つけて力を流しているだったが、それでもまだ、サカズキよりは強いだろう。魔女とはそういうものだ。それで、笑いたくなるのを押えて、サカズキはの両腕を掴み、壁に押し付ける。

「いいから、黙って、わしのところへ嫁に来い」



+




センゴクは、頭を抱えたくなった。この位置から、とサカズキの様子がよく見える。というか、本当、なんで見ないといけないんだ、というくらい、はっきりとよく見えてしまう。そして、悲運なことに唇の動きから何を話しているのか、わかってしまうのはもう、どうしようもなかった。

「……こ、この状況で……何をしているんだ…!!!あの男は……!!!!」

フルフルと、怒りで体が震えてくる。先ほどまでのシリアスムードもすっかり崩壊している。というか、本当に、何を考えているのかと、直に問いただしたくなった。いや、がドフラミンゴのそばにいるよりは、赤犬のもとへ戻ってくれた方が、安心である。の身を案じてのこと、ではなくて、悪意の魔女を自由にさせては世界が揺らぐと、そういうことだ。何かしら、これから魔女の係り合いのことであるのだろう。その時に、がどちらの味方であるのか、が重要なようにセンゴクには思われた。だから、この戦争の真っ最中に、赤犬がいつものようにを連れて行ったことも、別段咎める気もないし、むしろ、悪意の魔女を戦力に利用できるかもしれないたった一人の男の行動であるからして、その話も気になった。

だからこそに、戦況から一瞬注意を放して二人の会話を見ていたのだが、何だこれ。

センゴクは、ものすごく嫌だったが、しかし、理解した。この戦争を始めると決めた時から、赤犬の妙な冷静さ。に対しての無関心、それは、妙だった。傍目から、どう見ても赤犬がを、守ってきたのは明らかで、それなのに、ここであっさりと捨てていけるのかと、そういう疑問。

だがしかし、色々葛藤しようがなんだろうが、赤犬、はじめから何があろうと、最終的には開き直った。それだけだ。

(か、仮にも大将が…!!最高戦力が…!!!戦場で女を口説くんじゃない!!!!)

大声で叫んで士気に影響するようなことになったら、正直情けなくて目も当てられない。センゴクからは見えてしまったが、赤犬とてバカではない。周囲に人の目がないことはしっかりと確認済みなのだろう。ということは、センゴクの位置から見えているのは故意にということになる。それに気づいてセンゴクは顔を引きつらせた。

(わ、私を証人にする気かぁああぁああああ!!!!!!?)

口説いているというか、もう、前後関係全く無視をした、求婚である。いや、そんな生易しいものには到底思えない。の意思やら何やらすらきれいにスルーした、事実確認の形である。

見ればがあっけにとられた顔をして、赤犬を見上げている。幼い顔、先ほどまで見せていた魔女のものではないし、エースに散々外道なことを言っていた時の顔でもない。本当に「…はい?」と、何言ってんのこの人、と、全く状況を理解できぬ、間の抜けた顔。「返事は?いっておくが、是以外は認めんぞ、」などと、サカズキは気にもせず、のたまって、の頬を撫でたり、髪に口付けしたり、している。

(頼むからそういうことは終わってからやってくれ……!!!)

あのバカどもが!!と罵りたい心をぐっとこらえ、センゴクはおつるさんへ繋がる電伝虫の受話器をぎゅっと握りしめた。



 

 

Fin


・開き直った組長は最強だと思いませんか。
 本当はもっとじっくり書きたかった葛藤やらなにやらですが、まぁ、Wj沿いなので、こんなさらっとでもいいかなぁ、と。

・家がネット使えないので、仕事PCで無理やりUPです

 

 

 

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