ことの発端は、どこぞの夢見る海賊王のバカな提案だと責任を押し付けかけてトカゲは額を押さえた。インペルダウンでのあれこれを思い出すだけでも頭痛がするというのに、このルフィ、この、海賊王になると豪語する子供のこの言動、付き合っていれば、さすがのトカゲも胃が痛んでくる。

(ふ、ふふふ、というか、このおれに疲れを覚えさせていること事態、すでにこの子供は海賊王の器なんじゃないか)

トカゲとて元の世界では海の魔女。当然ロジャーの傍にいたわけで、あの破天荒、というかある意味ルフィとそろいのKYさをよくよくかみ締めさせられた。全く、ルフィくんといると飽きないよと、いつかが語っていたことを思い出す。あの頃、あのままにがルフィの前にいられていれば、今のようにはならなかった。そう思うのに。

、そう、のことをトカゲは考える。いや、正確にはと、パンドラのことを考える。あの狂女、がここにいるのに、それでもインペルダウンに赴いた。その心、考えればトカゲはぞっと身を震わせるしかない。

(定番だ。定番過ぎてつまらない)

あの女は、今頃目的のものを手に入れられているのだろうか。いや、マゼランがそうはさせまい。あの男が、インペルダウン就任以来ずっと守り続けてきたそれは、いくらあの女と言えどもそう簡単に手に入れられるわけもない。

そのことを、は知っているのだろうか。知らぬだろう。あんなものが、あったなどトカゲだって想像にしていなかった。しかし、今はもう気付いているだろう。それがわかった。

「まったく、どいつもこいつも、面倒くさい」

落下していきながら、トカゲは数分前のことを思い出す。







パン子さん登場、つまり状況はさらにややこしく








ドン、と何か大気の震え。大方エドワード辺りが何ぞしているのだろうとトカゲには見当がついていたが、しかしパンドラに抉られた眼球が痛んで周囲に自己主張をする間もない。そうこうして船が騒いでいるうちに、折角の軍艦は大波にさらわれ、しかもそのまま凍らされた波の上。

何がどうなったのだと騒ぐ連中、さんざくしく。トカゲは眉を寄せ、こんな状況下でも相変わらず落ち着き払ったクロコダイルに近づいた。

「パン子さん超コワイーとか言ってみるか?」
「うっとうしい口調は止めろ」
「ふん、ノリだノリ」

こういう遊び心もなければ魔女なんぞやっていられない。そう軽口を返せば、こんなときだって葉巻を話さぬ男、ふん、と鼻でこちらを笑い飛ばしてくる。眉間に寄せられた皺。若干の落ち着きなさをトカゲは感じ取った。おや、まさかと思うが、この男、一刻も早く白髭に会いたくてしょうがない、のだろうか。

「下を見てみろ」

ついっと、クロコダイルが促す。冷え切った潮風が傷口に当たって痛みがあったが、表面に出すのは気に入らなかったので、トカゲはそのまま下を覗き込む。

「おや、まぁ。おれたちは遅刻か。ふふふ、主役は遅れて登場するものだ。合コンとかな」
「…てめぇは減らず口をたたかねぇと気がすまねぇのか?」

呆れるクロコダイルはシカトして、船から下を覗き込めば、良い具合の戦争が始まっていた。氷ついた海に、広がる争い。憎しみなんぞどこにも落ちていないのに、それでも殺しあう。トカゲは視力が悪い方ではなかったので、事細かに下の惨状がよく見えた。刀を振り、下ろせば誰かに当たって血が流れるというようなその状況。戦火さえ燃え広がっている。炎が船を焼き尽くしていたが、しかしあの炎は、大方大将閣下の憤怒の炎だろう。トカゲが見ても恐ろしい、とは思わずにすむのだから、間違いはないはず。

それならも、あの中にいても震えることがなかろうと、思えばトカゲはほっとした。それでじぃっと眼を凝らす。巨大な船、ガレオン船、そこにモビーディック号、あの面白い形をした船が湾内に浮かんでいる。随分とかわいらしい形の船ではあるけれど、そこの船長がこの世界では現在唯一、海賊王、その称号に手をかけるに相応しい御仁である、というのもまたトカゲには面白かった。

「エドワード、相変わらず良い男だよ」

そこの船に堂々と構える男を眺めトカゲは目を細める。

「なぁ、砂の王、卿は本当に自分が白ひげを倒せると思っているのか」

ぴくりと神経質そうにクロコダイルの瞼が動く。それで忌々しそうにこちらを睨んでるが、しかしどうと言葉を返しはしない。トカゲは喉の奥で引っかいたような、奇妙な笑い声を立てた。

おかしな話だ。この男はあの牢の中、「この戦いに興味がある」とそう言って赴いてきた。しかしその時の本音は、のことだったはずだ。しかし、そう言うのが道理だろうと、そう賢しらに考えて建前たに過ぎぬ。だというのに、今ではすっかり、この戦いへの参加が目的となっている。いや、もしかすると最初から、本当は、本当の、心はそうであったのではないかと、トカゲは暴いてやりたい。この男と、こうして行動を共にしてトカゲはドレークを強く意識せずにはいられなくなった。当人に言ったら顔を真っ赤にして怒るだろうが、クロコダイルとドレークは似ている。別段思想うんぬん、ではない。心からかなえたかった夢があるのに、今の己のなんと違うことか、とはっきりと自覚している、その、姿がよく似ていた。トカゲはクロコダイルを見るたびに、ドレークの眉間に寄った皺を思い出す。酷い戦場や、あるいは戦闘のあとに、あの男はいつも険しい顔をしていた。こんなことがしたかったわけではないのに、しかし、手には血のついた剣を握っている。海軍時代、それが納得できなくて、よくよく「正義」をかみ締められなくて、ではそうではない、己は己の正義を果たそうと黒を纏った。それでも、やっていることは変わらぬのだと、その、苦悩が似ている。

トカゲは、クロコダイルのことをそれほど知っているわけではなかった。しかし、この男は、夢がある。きらきらと輝く玩具箱を心の中に持っていて、だが今はそれにしっかりと蓋をしていて、それが道理、そうしなければみっとも無い、という大人の顔をしようとしている。

「卿が、麦わら海賊団に入って爽やかキャラに転向したら、おれは面白いんだがな」

軽口を叩けば、本気で睨まれた。にやにやとトカゲは笑う。まぁ実際、この男があの元気活発、な麦わら海賊団とよろしくやれるはずがない。そうもわかっている。さてさて、その間にもルフィたちが何やら相談ごとをしていた。

「おい、おれにいいアイディアがある!!!」

と、ドーン、と自信たっぷりに言い放つ麦藁帽子のルフィ。トカゲの隣でクロコダイルがため息を吐いた。そういえばこの男、アラバスタで本気で戦うルフィの秘策「水ルフィ」を目の当たりにしたのだったか。それは呆れもするもの、と眼を細め、トカゲはにやにやとルフィの言葉を待った。

「おれのアイディアでこれを乗り切る!せっかくここまで来たのに急がねぇと、エースの処刑までもう三時間もねぇんだ!」

トカゲはひょいっと胸の谷間から(どこから出してやがるとクロコダイルが眼を逸らしたのでからかいたくなる)懐中時計を取り出すと時刻を確認した。なるほど、確かにあと三時間もない。予定時刻までは、と思う。しかしトカゲは海軍が、果たしてあのセンゴク元帥殿が海賊相手にきっちりと時間を守ってくれるのかとそういう疑問が沸く。もしも自分なら、さっさと殺しているものを。

というよりも、トカゲはそもそも、この「公開」処刑、というのがどうも不思議に思うのだ。

エース一人を殺したからといって大海賊時代が止まるわけでもないだろうに。エースを囮に白ひげをおびきだして一網打尽、いや、それもそれだが、世界のバランスを崩すようなものだ。たとえ海賊たちを大量に殺すことができたとしても、同じだけ海軍にもダメージが残る。共倒れしてでも世界平和★だなんて殊勝な思考回路の持ち主はそもそも海軍上層部にはいない。

そうこうトカゲが試案している中でも、ルフィの妙な提案は続く。

「力を合わせれば必ずやれる!!!」

とりあえず突っ込みを入れてやろうかとトカゲは口を開きかけて、止めておいた。



**



これから荒れる海の幕開けとなるこの戦争。何がどう壊れて崩れて新しいものができていくのか、そこまで自分が把握しているわけではない。しかしそれでも、今日自分がこのように動くことによって世界が大きく揺れることは分かっていた。

今日この日に、世界が揺れる。そのまま、揺れ動くまま元のままに収まれるのか、それとも揺れて何かが崩れてゆくのか。それは、もはや自分らの分量では測りきれぬもの。それこそ世界に問わねば答えもでない。どれほどに世界が、不変であるのか、それとも脆いものか、それが今日この日に、はっきりとわかってしまうのだ。

それでも白ひげは、今日この場所に来ることをためらわなかった。当然だ、息子の命がかかっている。世界と息子一人の命をどちらがどちらと天秤にかけるまでもなく、白ひげはエースの救出を選んだ。

落下してきた巨大な船を眺めて白髭は軽く眉を跳ねさせた。なぜ空から戦艦が落ちてくるのかの色々見知った顔はあるのだが、その中に、妙に赤い髪の、女にしてはやけに背の高い人物がいたことに気付く。

ぼろぼろとおちていくほとんどが海やら何やらに投げ出される中、その赤い、やけに細身の人間の姿が消えた。

悪魔を宿した身にはよくわかる。魔女の一人だ。

魔女、魔女、魔女、なんてろくな生き物がいない、とエドワードは口の中で呟いた。

白ひげは、エドワード・ニューゲートは魔女を嫌悪していた。ロジャーのところにいたあの悪魔のような姿をした魔女を嫌悪していた。己の船に足を踏み入れた時など、何度殺しかけたかわからぬ。圧倒的な敵意を、白ひげは魔女に抱いていた。

魔女の話しを、エドワードは知っている。寝物語に聞かされてきた。幼いころ、海へ出るもっと前から、聞かされてきた魔女の話。それを知れば魔女に憐憫か愛情を持つが、しかし、エドワードはそうではなかった。そのころから、恐らく今の「白ひげ」たる素質があったのだろうと、以前にからかわれたことがある。真っ青な目を真っ赤に腫らして、が、あの魔女が笑っていた。

『家族、を大事にする君には、ぼくの存在そのものが害悪になるんだろうさ』

初めて、キキョウを拾った時のことを、エドワードは思い出す。魔女は嫌いだが、しかし、いや、愛娘のキキョウは別だ。あれは、とうてい魔女などと呼べる生き物ではない。

が捨てた島の人間が、海にささげる生贄の習慣を作り、そしてキキョウが海へ流された。白ひげは流れるキキョウを拾い上げ、船に乗せた。娘と、そう呼べば、幼いキキョウは小さく笑って、少し泣いた。

キキョウは、とうてい魔女と呼ばれるに値する生き物ではないのだ。あれは、家族を誰よりも思っている。マルコが魔女の飢餓に苦しんでいる姿を誰よりも、心を痛めていた。それを助けたいばかりに、キキョウは魔女になんぞ、手を出したのだ。マルコ、そうだ、マルコと、キキョウのことだってまだまだエドワードは考えなければならないのだ。エース、エース、エースのことや、マルコとキキョウのこと、それに、ジョズのことや、まだ、息子たちのことを考えたい。それがエドワードの幸福だ。バカな息子や娘たちに、しょうがねぇやつらだ、と笑いながら、手を焼かされることが面白い。家族、のために、生きることが白ひげには楽しかった。

シェイク・S・ピアを船に乗せたことを、白ひげは後悔していなかった。いずれ必要となるということは明白だった。今、このひどい場所となった戦場には魔女が集う。たとえ白ひげが連れてこなくとも、シェイク・S・ピアはこの場所へ来ただろう。そういう予測は立っていた。だから白ひげは自らピアを引きつれた。あの娘は言葉の上の誓いは守らぬが、しかし、文字に刻んだ約束事は必ず守る。

白ひげは目を伏せた。今日この日、魔女が死ぬ。それがどの魔女のことなのか、白ひげにはわからない。だが、それがキキョウで、己の娘でないようにするために、白ひげはピアを船に乗せた。

手に持つ武器を握りしめる。エース、今はエースのことを考えよう。



**



とりあえずは思いっきり、ドフラミンゴの膝に蹴りを繰り出した。がつん、と底の堅い靴なのだがそれでどうこうなる七武海でもない。ドフラミンゴはひょいっとの体を抱き上げて額に唇を落とすとその額に掛かる髪を払ってやった。

「やつ辺りりかよ、フッフフフ」
「鳥に人権はないよね」
「堂々と言うなよな、フフフフ。さすがに落ち込むぜ」
「うそつき!」

まぁ、の言動ならなんでも愛しいとばかりに告げれば、が嫌そうな顔をした。Mか、Mなのか、このバカ鳥。いや、しかし文句を言ったところで聞く男ではないと常日頃から知っている。ぐっと黙ってから、白ひげのいる湾内に視線を向けた。

「ルフィくん、どうして来ちゃうのかな。どうして何一つ、ぼくの思い通りにならないのかな」

ぽつりとつぶやく声にドフラミンゴが眉を跳ねさせた。インペルダウンから戻ってばかりの、どこか、別人にしか思えなかった、ではない。ドフラミンゴが背を刺してから、段々と、、本当に、に、戻ってきているような、そんな気がした。

このままでいられればもしかすると、どうにもならぬことをどうにかすることができるのではないかとそんなことをドフラミンゴは考え、苦笑する。それこそががかつて望んでいたことではないか。何もかわらないで、ずっと、このまま。川べりに座り込んで、小石を投げながら小さな背が呟いていたではないか。それをありありと思い出し、ドフラミンゴは目を伏せる。

そんな、傍らの男の胸中など知らぬ。は景気よく落下してくる巨大戦艦を眺めて、再びため息をついた。

あまりにも予想外の事態に、戦争の勢いすら一瞬止まる。いや、まぁ当然。だれが戦争の真っただ中、船が上空から落下してくると予想していただろうか。

このままこの戦争も終わってくれればいいのだが、アラバスタの雨のようにはならぬ。むしろ、さらに炎が勢いを増して燃えていくのだろうと、それがにはわかった。ルフィ、ルフィ、ルフィ、くんが来た。自分の心がどんどんのものになっていくのを感じる。

まったく、本当に世というのはいつだって自分の思い通りにはなってくれない。

「いやになるよ、まったく。本当に、イヤに、なる」

このままルフィに会って、頼まれてしまえばどうなるだろうか。はルフィが好きだった。あの子を、自分の船長だと認めてしまった。ルフィには妙なカリスマ、いや、引力がある。ティーチのバカとは違う。天性のものだ。ひとたらし、というのは言葉は悪いが、他に当てはまるものもない。はぎゅっと、ドフラミンゴの服を掴む。

「なんだ?」
「ぼく、絶対にルフィくんには会いたくないの。会ったら、ぼく、変わってしまう。あの子はとても不思議な子でね。あの子を見ていると、明日を迎えるのがとても楽しいことに思えるんだよ」

不安そうに青い瞳を揺らして告げてくる。絶対に嫌、とそう、それをドフラミンゴに言えば、なんとかしてくれるのではないかと、そういう気が見えた。ドフラミンゴはを抱きしめ、請け負う。お前が嫌がるようなことは何一つしないと、そう囁けばがほっと息を吐いた。

体の力を抜くを感じながら、ドフラミンゴ、あれ、ひょっとしておれ今かなりおいしい状況か、これ、と真剣に考える。




+++





「……ふ、ふふふ、このおれを海にたたき落とすなんて……絶対に許さんぞこの、麦わらァ!!」

ぶるっと、海水で重くなる体を震わせてトカゲは拾ったルフィの体を思いきり振りつけた。運よく凍っていない場所に落下できたのは、まぁよかった。しかし海に投げ出された、能力者たち、それに+己という状況。幸いジンベエが助けてくれたのだが、これ、折角助けに来たというのに溺死したらそれこそ目が当てられぬ笑い話にもならぬ粗末な結末と、そうなりはしないか。

ぐいっと、遠慮なく踏みつけたルフィの体、口から大量の水が噴き出した。人工呼吸、に近い結果になったのか。トカゲはふん、と鼻を鳴らして濡れた髪をかき上げると、そのまま船の残骸の上に腰を下ろした。

「おい、ルフィ。さっさ目を覚ませ」
「ん?あぁ、パン粉、い、でっ!!」
「ふ、ふ、ふふふ、だから、おれはパン子さん、もしくはトカゲとそう呼べ」

さすがに何度目かになるかわからぬ呼び捨て、そして妙な名にトカゲはごつん、と銃の柄で頭を殴り飛ばした。ルフィは恨めしそうに一度こちらを睨んでから、はっと、気付いたように辺りを見渡す。

「そうだ!!おれ、ここは…!!」
「見てみろ、目的地だ。海軍本部、マリンフォードの港町……そうそうたる顔ぶれじゃあないか」

ルフィの観る先を同じようにトカゲも観た。戦争はやはりもういい具合に始まってしまっている。本来大将がいるべき、処刑台の下はも抜けのからであった。これ、攻め込まれればヤバくね?とそう思うのは素人根性。見ればどうやら、エースの傍らにはセンゴクとガープがいる。トカゲはたとえ冗談でだって、あの二人が構える場に突っ込みたい、とは思わない。つまりは、そういうことだ。

ちらりと見る限り、ずいぶんと有名人ばかりしかいない状況。ちらり、と適当に目をとめたところでも十分な、「強者」と知られる海賊・海兵が殺しあっている。

ぞくり、とトカゲの体が震えた。せんそう、戦争、争いごと。大嵐のように何もかもをひっちゃかめっちゃかにする状況。好ましいとは思えなかった。しかし、今、だからといって自分がどうこうできることもない。

「あ…!!おい、パン粉!!あれ!!あそこ…!!」
「……」

もう何も言うまい。もうパン粉でいい、あれか、上手い具合にフライがあげられるのか、おれは、まったく、このガキには何を言っても無駄なこと、とトカゲはふるふるとこぶしを震わせていろんなことに耐えた。それで、ルフィが嬉々として指さす方向に顔を向け、眉を跳ねさせる。処刑台の上に、そういえばいるのは。

「おや、あれは」
「ルフィ!!!!!!!!」

噂のエース、とトカゲが呟く声は、張本人の大声でかき消された。落下してきた奇妙なもの、注意を惹かぬわけもなし、エースも同じく観て、探っていたよう。それで見知った姿をいくつか、そして、一番、ここで観たくはなかったらしい姿、弟の姿を見つけてエースが声をあげたらしい。

「エース!!!!やっと会えた!!!!」

海水のしびれももう消えてきたのか、ルフィ、ボンクレーと別れて以来初めての大きな笑顔を浮かべて手を振る。その様子、ここ戦場だってわかっているのかとトカゲは笑いたくなった。

ルフィの大声に、海兵らもこちらを振り返る。どん、とそういえば、トカゲは背後を振り返る。そういえば、いつのまにかスタンばっていらっしゃる、脱獄仲間。トカゲの後ろには、イワンコフやらジンベエやらクロ子さんやら、そうそうたる顔ぶれ。その中で置くすことなく前に出ているバギーは、もう本当にかわいらしいったりゃありゃせぬこと。トカゲはころころと喉を震わせて笑い、自分もすくっと立ち上がった。

「助けに来たぞ!!エース!!!!!!」

ルフィの大声に、トカゲは先ほどまで感じた、戦争への恐怖がキレイさっぱり消えてしまっていることに気づく。つくづく不思議な子供、であった。本当に、この子供ならをどうにかできるのではないか、そんな期待が湧く。あの女も、ルフィであればあるいは、とそういう懸念があるらしかった。あの女の困ることは何が何でもしてやりたくなる、というのもあるが、なおさら、トカゲはもう一度、に会わねばならぬと思うのだ。

ひょいっとの姿を探そうと見渡すが、見える限りにはいない。それに赤犬の姿も見えず、まさかこの戦場でイチャついてるとかそういう展開はないだろうな、と顔をしかめる。ない、とは言い切れぬあのバカップル(無自覚)だから恐ろしい、とそんなことを考えていると、周囲が騒がしくなった。

「うん?」

気づけば、クロ子ダイルがいない。おや、とトカゲが首をかしげていると、どがっ、と何かと何かがぶつかりあう音がした。





++




おや、とは面白そうに、ドフラミンゴの肩によじ登ったまま手をたたいた。

「ほら、ごらんよ鳥。クロコダイルくんだよ、おや、まぁ、無事に脱獄してきたんだねぇ」

の声がはしゃぐ。やはりクロコダイルのことは気に入っている。そう声を弾ませていれば、ドフラミンゴが気に入らない、という顔をした。

「あのまま地獄の釜で煮られときゃよかったんだ」

ぺちん、とはドフラミンゴの額を叩き、白ひげの首を正確に狙ったクロコダイルを眺める。それを止めたのはルフィだった。なるほど、先ほど海水に落ちていたから、濡れた足なら受け止められる。

「バカだねぇ、クロコダイルくん。彼にエドワードくんは殺せやしないのに」
「殺すに足る怨恨はあるんじゃねぇか?」
「ふふ、バカかい?きみは。そんな程度で殺される、並みの化け物ではないんだよ。彼はね」

は目を細めて白ひげを眺めた。世に、化け物、怪物と呼ばれる生き物はわりと多くいる。しかし、それでもただの人間、とそう各自は思っているようだけれど、魔女の目には違う。

ある一種の、人間には面白い天分がある。森に入ったお姫様が猟師や獣の手になどにかかって死ぬことがないように、そういう、並みの命ではない。

「じゃあ聞くがよ、どうすりゃ、あのジジィは死ぬんだ」
「死因は知らないよ。ぼくは預言者ではないからね。でも、エドワードくん、彼は白ひげ。怪物さ。怪物を殺すのはかならず人間。でも、並みの人間に殺される化け物ではない。けれど、ねぇ、彼でさえ、死ぬだろう状況というのはあるんだよ。そこに持ち込まれ、運び込まれれば、どうなるか、それはわかりはしないさ」

人が死ぬことに意味がある、理由がある、と人はそう見つけたがるのがにはわからない。生きてしまうことにこそ、理由があるのだ。で、あるから、クロコダイルごときの敵意でエドワードは殺せはしない。

はてさて、とは、なんだか白ひげと互角に言葉を交わしているルフィと眺める。あの大海賊、生きてる伝説のエドワードを前にしてもまるで怯まぬところが、もう、なんというのか。ルフィは、そういうところがある。何も知らない、誰がどうとか、そういうことを知らないし、関係ないのだ。ルフィには、人の名前など、本当にただの名前であるし、伝説は、それでも、その個人の付加価値とはせぬ。

だからはルフィが好きだった。を魔女と知っても、それでもルフィはを船に乗せてくれて、そして手を繋いでくれた。は困ったように眉を寄せ、息を吐く。

「本当、困ったね。ルフィくんに会ったら、ぼくはきっと、に戻ってしまう」

今こうして、彼がここにいる、と思うだけで、どんどん心が変わっていくのがわかる。





Fin