爆音が響く海賊の根城にされた島。あっさりと、それはもう、容赦なく焼き尽くされる街をマストの上からじっくり眺めて、は目を細めた。

数年前からとある島を占拠してやりたい放題している海賊団がひとつあり、あまりに無礼なその態度。しかし頭が中々の実力者ということで海軍支部では手の打ちようもないというありさまだったらしい。そこへやっと、というか、そういう状況が続いていることが性格的に許せないのか、それはまぁどうでもいいが、腰を上げて、軍艦一隻引きつれてやってきました、サカズキ中将。民間人はいても犯罪者に加担した連中、助ける意味もないと、到着早々街に火山弾を振らせた、容赦もないが血も涙もない正義の海兵どの。

燃え盛る街、逃げ惑う人々、その悲鳴、悲鳴、悲鳴にはぎゅっと己の肩を抱きしめた。凄惨な光景に心を痛める、などということではない。ただ、こういう戦火が恐ろしいゆえのこと。人がここでどう死のうとそれは構わない。

「それにしたって、あの男は一体何をそんなに憎んでいるのかねぇ」

身を苛む恐怖を紛らわせようと、は呟き、いや、そうではないだろうと一人すぐに首を振った。目下では海兵たちがこちらに向かい何事か叫んでいる。未だ得体の知れぬ魔女であるこの己の処遇を海軍本部でも考えあぐねいているようであった。インペルダウンにあっさり放り込めば、魔女の旧知である海賊たちにいらぬやる気を与えるとかそんな杞憂というには、あまりに危険の孕んだもの。そういうことはにはまるで興味はないが、しかしそれでも、今こうして、自分がマストの上に乗っているのを「危ない」と案じて叫ぶ海兵たちは、いささか鬱陶しかった。

トン、とはデッキブラシに跨ってふらりふわり、と甲板に降り立つ。現在海賊と海兵の戦闘真っただ中の状況、この海軍の船に残っているのは魔女を監視するように言い含められた海兵たちである。彼ら、魔女というのが何なのかを知らぬとも、ただの生き物ではないと警戒はしている。それでも見かけの幼さを彼らの正義の基準に当てはめて比護するべきとそう判じているのか、案じる声はどれも心がある。あの男の部下にしては珍しいと、そういう感想はあった。

が下りたのと、丁度同じくをして、港からサカズキ中将がこちらへ歩いてきた。手には体がねじれかけた海賊がずるずると引きずられている。体のあちこちが溶かされ、燃えている。どんな攻撃を受けたのかは一目瞭然だった。それでもまだかろうじて息はあるらしい。当然か、この島はもともと海軍が管轄している島だった。そこを海賊が奪ったのだ。ここであっさり葬る、のではなく、しかるべき処分を、手続きを、責任の所在をはっきりさせてから殺さねば、彼らの正義は成り立たぬ、とそういうことだ。面倒くさいとは思う。だがそういうプロセスがなければ、彼らの力はただの暴力だ。

「何をそんなに怒っているの?」

薄ら目を細めて小馬鹿にしたような声、あどけない幼女というよりは世に飽いた魔女の声。奇妙な笑い声を潜ませて、はひょいっと、船から見下ろす中将、その目深にかぶった帽子の影をじっと見る。己がいたこと程度、知らぬわけでもなかろうに、こちらをちらり、と一瞥し顔を顰めるその中将。足蹴にした海賊にはもはや目もくれず、ぐいっと、何かを引っ張るような仕草をした。途端、の体は船から引きずり落とされて地べたに這う。引きずられた海賊と同じ位置になり、サカズキの足がの腹部を蹴った。吹き飛ぶほど、ではないがしっかりと内臓を傷つける気の一撃。がはり、とは小さな口から血と胃液を吐き出して咽た。

「貴様ら罪人を前にして、にこやかに談笑できると思うか」

げほげほと苦しみに眉を顰めるの前髪を乱暴に掴み、サカズキ中将は目を細める。釣りあげられた体制、首に絞めつけられた茨の縄の責苦には掠れた笑いを喉から零し、腕を振った。ザン、と妙な音を立てて、サカズキ中将の腕が肩からごっそりと切り落とされる。が、それはすぐにマグマとなって地を焼いた。運悪く、地べたの海賊の足にマグマがこぼれ、つんざくような悲鳴があがるがも、そしてサカズキもそれは当然無視をする。

は己の喉をさすり、腹部のウンケの屋敷蛇がめまぐるしく活動するいびつな音を聞きつつ、サカズキ中将を見上げる。

「君の手はとても怒っているんだね。サカズキ中将どの。べつに、憎んでいる、わけじゃない。君は誰も憎んでいない。ただ君は怒っている。何もかもが許せないと、その手がとても、怒っているんだね」

低く、血を呪うような魔女の笑い声が染み渡る。は己のこの感想は間違ってはおらぬと自信があった。

この男は、誰かに憎悪など抱いたことはないのだろう。ただ、怒っているのだ。何もかも、許し難いと、そう、声を荒げて怒っているのだろう。何も憎まず、というのは美徳ではない。世には、誰も憎んでいないというステキな慈愛の精神もあるらしいが、この男の場合、燃え滾る炎のごとき憤怒のそれだ。何も憎まず、ただ怒っている。怒鳴っている。憎しみは心を曇らせるゆえにこそ、か、それとも、誰も愛してはいないから、何も憎むことがないのか。愛憎表裏一体という言葉をは頭の中に思い浮かべた。ならばこそ、この男は、誰も憎んでいないからこそ、誰も、愛しはしないのだろう。

「ぼくは心配だよ。燃え盛る炎のようなその怒りは、いつか君自身を焼き尽くしてしまうんだろうねぇ」

心配、という単語がこれほど胡散臭く聞こえる声もあるまい。ころころと喉を震わせてが笑う。その声、その音、その言葉に周囲の海兵がぞっと寒気を感じる中、一歩前に踏み出して、の首を掴みこちらに引き寄せたサカズキ中将。普段帽子とフードの影になって見えにくい目をじっと、に向け、近づけ、常に険しくされた口元を、尊大な笑みの形に引き上げる。

「この身は炎をも焼き尽くすマグマ、貴様の悪意など、私には届かんぞ」




 

 

 

 


真っ赤な空を見ただろうか

 

 

 

 




出ました、脅威のS亭主。とかなんとか、そんなことを内心で叫ぶような余裕すらにはなかった。

自分を見下ろしている赤い目がひしひしと感じられる。できれば顔を上げたくない、とは眉を寄せた。顔を上げて、目ではっきりと見てしまったらもう、色々台無しになるようなそんな予感だ。何が台無しになるのか、それはわからない。別段、心当たりがあるわけでもなかった。己の決意は己だけのものであるとはわかっている。王子さまになると、そう決めたその心。それは魔女としての意地だ。それはサカズキがどうこうできることではなくて、それなら、自分は何が台無しになっていると思っているのだろうか。それにしたって、どうして連れてきたんだクザンくん、と内心罵り、ぎゅっと、は掌を握った。

それでも目を閉じることができない。

自分は弱いのだろうか、いや、とは即座に否定する。弱いとか強いとかではない。そこにあるのは、ただの覚悟の差だ。そんな風に思いながここから全力で逃げだせないのは己の弱さではなくて、どう考えてもサカズキから逃げることはできないという、一種の諦めゆえであった。

「顔を上げろ」

いっそ以前のように無理やり掴んで上を向かせてくれればいいのに、そうはしないらしい。はその言葉にフルフルと頭を振る。苛立った声には気付いている。無理やり顎を掴んで向かせれば、は意地を通せた。そう判っていて、この男は自分からはしない。こうなればもさらに向きになって、俯く。そうしてずっといられるわけもない。痺れを切らしたのは、この戦場で戦力と数えられているサカズキだった。っち、と、舌うちする声が聞こえ、自分の勝利と喜べるわけもなく、は体を震わせた。

「わしが嫌いか」
「ちがッ」

忌々しそうに履かれた言葉に反射的に顔を上げて、声を上げながら、は後悔した。口を開いたのはサカズキが先だが、結局自分は顔を上げてしまった。しかも、強制的に、ではなくて、己がサカズキの言葉を否定したくて反応してしまったのだ。どちらが敗者か決定し、は溜息を吐く。そうして自覚したうえで、顔を上げ続けた。

真っ直ぐにこちらを見つめる瞳、真っ直ぐ、真っ直ぐ、欠片も揺らがぬ、迷わぬ、正しいことをただしているという事実を掲げる、大将殿の目の中には自分の姿が映っていることを自覚した。見てしまってはもう遅い、顔を下げても事実は残る。は眉を顰めて、サカズキを見つめ返した。己の目の中にも同じようにサカズキの姿が映っているはずだ。それを躊躇うことなく見つめ返す理由を、今更問う必要はなかった。インペルダウンのシリュウ看守長とて知っていることだ。魔女の瞳を見つめ返すことがどういうことか。は体を強張らせ、唇を噛む。

「酷い男と思うなら思え」

瞬きも出来ぬほどの沈黙と、堪え切れぬ感情にただじっと耐えるに、サカズキが静かに呟いた。何の感情もないような、淡々とした音である。それでいて、その眉間に寄った皺の深さは普段より増していて、不機嫌というよりは、若干の意地のようなものが見て取れる。

てっきりまた状況も空気も読まぬ言動を繰り広げるのかと思ったが、そうはしなかった。

酷いと思われる理由をはじっくり頭の中で考える。心当たりのなんと多いことか。ロジャーに息子がいたことを黙っていたこと、ロジャーを殺した海兵である事実のこと、何もかも知っていて自分に黙っていたこと、今でも自分のことをと呼んでいること。これまで殴り続けてきたこと、思えばそれはもう大量に思い当る。が、しかし、サカズキが今言っているのはそんなことではなかろう。自分のしたことを後悔はしていないのだ。だから今更そんなことをいうようなひとではない。では何か、とは考えて思い当った。スクアードをだました、ということか。サカズキ自身は何とも思っていないだろう。だが、はそういうことを気にするところがあるかもしれないことを知っている。悪いとはこれっぽっちも思っていないが、が非道と思うことは構わないということだ。それは未だにを悪意の魔女と扱うことに他ならない。気付いては一瞬唖然とし、そして、ふわり、とそこで初めて、詰めていた息を吐き、そして剣の柄を強く握りしめていた力を解く。

ゆっくりと一歩、サカズキに近づいて、ゆるやかに首を振る。肩口で切り落とした髪が揺れる。目の端にちらりと見える己の赤い髪の残像がまぶたのうらにちかちかと焼けつくような感覚がした。

「思えないって、わかってて聞くのは意地悪だよ」

今も、背の痛み、眠気もまるで収まりはしない。気を抜けば意識を持っていかれるその状況に陥っているのに、は恐ろしさを感じなかった。目下では恐ろしい戦争が広がっている。戦争、人の争いは恐ろしかった。人が、ひとがあっさりと死んでいくその状況をは恐れていた。しかし今、こうして向かい合って、お互いの瞳の中に互いが映るその状況にて、は心から恐怖が消えるのを感じ、そしてそれを受け入れた。

「そうか」
「そうだよ」

開き直った、と言うには余りにも控え目な表現だというのがの感想だった。そうして自分がこの場で開き直れたのは、どう考えてもこの男が原因だ。さまざまな記憶が混同して、思い押し潰されて、やらなければならないことでがんじがらめになって、しまった。

それなのに、開き直れた。単純だ。どんなことがあろうと、どんな事実が刻まれようと、それでも、サカズキがすきだった。そう残った心が、として留めた。単純だった。ドフラミンゴのことや、ミホークのこと、ノアのこと、バギーのこと、ロジャーのこと、エースのこと、さまざまなものがの心をかき乱し、何とか自分を取り戻そうとしていた。しかし、それでもなお、リリスとしての決意は強く、そのまま、消えてしまいそうだった。

トカゲは、気付かせた。
なぜまだここ、この、戦場に残っているのかと問いかけて、に、気付かせた。

足掻く必要などないくらい、はっきりと判り切っていることだった。この心には、サカズキを思う己がいる。それは、どんな事実があっても、消えなかった。消えると、思っていたのに。思い出して、最初に愛した人を思い出して、消えるはずだった。それなのに、自分はそれが消えたと思っていて、まだ、残っていた。

なんだか本当に、この20年の時間というのはそれなりに意味があったものなのかと、驚いてしまう。これまで自分が過ごしたどんな長い時間でも、この心に傷以外のものは残せはしなかった。それなのに、サカズキは。

「サカズキ」

決めたことがある。言わなければ、ならないことがある。は背筋を伸ばして、一度瞬きをした。

喉から出そうと、これまであっさりと出ていたはずの言葉が、サカズキをいざ前にしてみるとまるで違う。なぜだか掌が汗ばみ、ぎゅっと握りしめる。そのまま踵を返して逃げ出したくなるのは何故だろうか。今すぐに言わねばならぬことでもなかろう。というよりも、言う必要などあるのかどうか、と、そんな自己弁護を心の中で繰り返す。しかし、真っ直ぐにこちらを見つめる赤い目を無視することなどできるだろうか。いや、できるのなら、とっくにそうしている。あれよこれよと悩んで何とかもっともらしい逃げ道を探そうとしている時点で既にもう、捕らえられてしまっている。いや、違う、20年前にオハラで押さえつけられた時から、もうとっくに、囚われの身。

緊張し、は身を強張らせた。一秒が随分と長く感じられる。

「サカズキ、」

やっとそれだけ何とか舌に乗せられた。それでも意味のある言葉ではない。カァアアとは自分の顔が赤くなるのを感じた。何を小娘のような反応をしているのかと、自分で呆れ、そして同じようにサカズキが呆れやしないかとそれが気になる。何を気にする必要があるのか。自分から見ればサカズキなど生まれたばかりの小僧のようなもの…と、思いかけては首を振った。サカズキよりも自分の方がずっと年上だが、今そういうことは関係ないし、むしろサカズキを小僧、などと思えはしない。無理だ。普通に。

「百面相しちょるが、早い話、わしの嫁になるっちゅうことじゃろうがい」
「いや、それは違うよ!!?」

中々言い出さぬにしびれを切らしたか、溜息ひとつの後にサカズキが口を開く。いや、ちょっと、と言われた内容に反射的には顔を上げて待ったをかけた。

「なんでそうなるの!!?」
「貴様はわしに惚れちょるじゃろう」
「ちょ、ちょっと待ってよサカズキ!!まじめにぼくの話を聞いてよ!」

堂々と言い放つサカズキに、は慌てて声を上げる。このままだとサカズキのペースに持っていかれる。折角あれこれ自分で考えたことやら何やらを、それはもうきれいさっぱり無視してくれるだろう展開には焦り、ぐいっと、サカズキの服を掴んだ。

「わしは真面目じゃァ」

なら尚更タチが悪い。
いや、そうではなくて。

ぶんぶん、とは首を振る。こうなってはこちらの羞恥心やら何やらで余計な時間を食っている場合ではない。自分としてはもう少しこう、ムードやら何やらあってもいいんじゃないかとそう思わなくもないけれど、そもそも自分とサカズキにそういうものを求めるだけ無駄であるという極論。

……ちょっと泣きたくなってきた。

「ぼ、ぼくはその、その、あの、ね…サカズキのことが好きだっていう気持ちが、どうしてもなくならなくって、それで、そういえばぼくは死んでるんだけど、今はちゃんと生きてるから、だから、その、ここであっさり死んで終わりにするのはみっともないかなぁって、そう思って」
「まどろっこしい貴様の葛藤なんぞどうでもいい。わしでは不服か?
「だから話聞いてよ!!?」

何のために説明しているんだ!?とは最もな悲鳴を上げるが、非難された当人「聴いちょるじゃろうがぃ」と平然と言う。

あぁ、なるほど、耳で聞くが考慮する気はないということか。

ぽん、とは手を叩き納得したように頷いて、剣を抜いた。女神の放つ銀の矢に喩えられたほどの素早いの一閃を、しかし赤犬はあっさり避ける。ぐいっと、の手を握り、容易く剣を奪った。

「物騒じゃのう。早くも婚前前の鬱病か」
「マリッジブルー扱い!!?今結構本気で切りかかったんだけど!!!!?」

いや、確かに殺意と悪意を込めなかった辺り本調子には遠いかもしれないが、しかし、手加減しては意味がないと分かっているのでそこそこ本気の攻撃だった。それをあっさり避けられて、は少し落ち込みたくなる。

そしては顔を引きつらせた。

ひょっとして、サカズキのペースになるのか、これ。




+++




中々良い一撃を繰り出したことには感心しつつ、しかし覇気もなければ悪意もないただの斬る行為なんぞものともしない。赤犬は喉の奥で低く笑い、一歩後ろに下がった。そのまま乱暴に脇腹を殴ろうとする腕を掴み、引き寄せる。シェイク・S・ピアや、白ひげのところの女海賊に片腕を奪われたままだ。一時的にはまがい物を復活させたようだったが、それも長くは続かぬと見える。今は無理やり止血した、切り落とされて骨の見える二の腕があるばかりだ。サカズキは頭の中で、絶対にあの二人はこの手で殺すと誓い、の腰を抱く。こうして見れば、背が伸びたという事実も悪くない。以前は自分の足までしかなかっただが、腕の位置には来ている。

「そう怒鳴るな、貴様の行動は判り易い」
「ぼくが怒るって判って言ったってこと!!?余計腹立つよ!!?」

顔を真っ赤にして怒るを面白そうに眺めて、サカズキは顎に手をかけた。こういう顔をして口付けられないと思っているところが本当に阿呆である。このままじっくり甚振ってみるのも楽しいが、生憎そういう時間もない。一応現在、戦争中であるという自覚はある。白ひげも動き出した。自分とてあまりに時間をかけることはできない、それは判っている。だが、ここでを逃がせば二度とこちらに近づくこともないだろう。は何かしらの覚悟を決めたようだが、その覚悟とて、サカズキには関係のないことだろう。関わりがないことなら、は、どんな事実のうえにその決意をしたところで、自分から逃げる。そんなことを許すつもりは毛頭ない。

実際のところ、サカズキは妙な安堵感があった。これが帰ってきたと、その事実がゆっくり臓腑に染み渡る。それでもまだ逆らおうとするの神経が信じられない。どんな決意をしたのかは知らないが、この自分から逃げられると思っているのだろうか。

「ひとつ、気付いたことがあるんじゃがのう」
「な、なぁに…?」

ぽつり、と呟けば、何かもの嫌な予感がしたらしい、がジリッ、と一歩後ろに下がった。逃げられないように腕を掴むのは簡単だが、そうはせぬ。向かい合うサカズキ、「何」とさして特別なことを言うつもりもないような気安い態度、そして腕を組んだそのままに、堂々と口を開く。

「わしは貴様に惚れちょるようじゃ」

ふむ、と、ひとつの諦めのような気安さがあった。まぁ、そうなのだろうと、認めてやろうとサカズキは思う。

この己が小娘のように「好き」だの「愛している」だのと思う心があるとは万に一つも認めない。しかし、さまざまなことを考え、踏まえて言えば、おそらく、いや、確実に、己はに「惚れて」いるのだろうと、そう、サカズキは納得した。

愛など冗談ではない。そんなもの、この己がもつわけがない。そういうものはもっとまともな人間が持つべき感情だ。自分がそんなものを持った日には、腹が立って仕方ない。だがしかし、に「惚れて」はいるのだろう。この自分が認めた女子である。自分を惚れさせて当然だ。

そう勝手に己の中で納得し、己の中で勝手に完結したサカズキ。そうしての反応を待てば、顔を真っ青に、がした。失礼な反応である。このままガタガタ震えでもしたらこの場で犯してやろうかと、物騒極まりないことを考えるサカズキ。しかし、潮のように血の気が引いていた、じっくり三秒後、やっとサカズキの言葉の意味が浸透したか、唐突に、ぼんっ、と、これまでにないくらい、顔が、いや、全身が真っ赤になった。真っ赤に燃える髪に負けぬほど真っ赤、いや、実際は血行がかなり良くなってしまったというだけでまっ白い肌が桃色に染まった程度なのだが、表現的にはこう、トマトのように!というくらいで丁度良い。

「っ、っ、っっ…!!!?」
「なんじゃァ、息もできんほど感極まったか」

酸欠状態の金魚のように口をパクパクとさせて意味のない音を発するを、サカズキはそれはもう面白そうに目を細めて見下ろす。長く伸びていた髪は自力で切ったのか、肩口でまばらになっていた。切りそろえる必要があるとは思うが、この美しい髪に鋏を入れるなど持っての他だとも思う。そんな、まるでこの戦場にふさわしくない脳内が色ボケしまくっていることを考えるサカズキなど知らず、は目じりに悔し涙さえ浮かべて、パンパン、と片腕でサカズキの胸を叩いた。

「ち、違うよバカ!!!バカ!!!なんで今言うの!!!?」
「いつなんどきどの状況でわしが何を言おうと勝手じゃろう。罵られるとは不快じゃのう。なら聞くが、よもや貴様、このわしが貴様に惚れちょらんと思ったんか?」

今自分をバカと言ったことはしっかり覚えておこう。心の中の閻魔帳にしっかり記帳して、サカズキはの頬を撫でる。耳まで真っ赤にしているその様子、こちらの一挙一動にころころと表情を変える。こう元に戻った理由やきっかけが何なのかはよくわからないが、とにかく、戻ってきたのでよしとしよう。

そして、サカズキはをこれからも魔女と扱うつもりだった。そのうえで「惚れている」という事実を認めた。大将として悪意の魔女を妻にする、という覚悟がある。それがどういう結果になるのかわからぬわけではないが、躊躇う理由もなかろう、という開き直りである。

とりあえず、が自分の元から離れないのなら隕石が降ってきてもなんとかする、というくらいの、覚悟というか、本当、周囲が知ったらドン引きするような決意である。第一、パンドラ・が目覚めた云々、確かに大事件、大問題ではあるけれど、それならもう一度眠らせればいいだけだとか、そんな非常識極まりない思考さえある男。が何やら低く唸って、観念したように叫んだ。

「サカズキがぼくのこと好きなのくらい知ってるよ!!!」
「では何が不満じゃァ」
「なんていうか全体的にこの展開が嫌!!!」

ごもっとも、と、沈黙していたクザンがやっと突っ込みを入れた。いたのか、とサカズキは面倒くさそうに同僚を振りむく。白ひげが本気になっている事態なのだからお前もしっかりしろ、ととりあえず睨み飛ばせば、クザンが顔を引きつらせた。

「いや、お前、戦争なんだけど今」

今もズドン、とそこらかしこでばっちり戦闘が起きている。白ひげはスクアードに何か告げて、そしてこちらに挑んできている。そういう状況で何お前らイチャついているんだ、と只管クザンは頭を抱えたくなっていた。

いや、確かに、とサカズキを再会させようとしたのは自分で、そのために連れてきたわけで、こうなることも若干判ってはいたのだが、なんというか、実際こう、目の前でやられるときつい。

「本格的にわしが戦闘に加わればこれと会話することもままならんじゃろうがい」
「あ、何、一応考えてたんだー、へー。………へぇ、そう」

なんかもっともらしいことを言うサカズキをクザンは胡散臭そうなものを見るような目で眺めた。絶対嘘だ。たとえ目の前に白ヒゲがいても、こいつはに亭主宣言するだろう。そう考え、実際そんなことになったら自分はどうしようか、とクザンは顔を引きつらせた。

「ハイハイ、新婚予定のバカップルはもういいから、ちゃんとの新婚生活のためにも、負けらんないよ、この戦争」

しかし、ここで自分が諦めたら誰もこのバカップルを止められない、とクザンは本能的に察している。いや、まぁ、戦争でこういうのがあったら敵さんもドン引きしていいかもしれないが、なんというか、そういうのが歴史に残るのは海軍としてかなり嫌である。ぱんぱん、と手を叩き、シリアスムードに変えようとすれば、サカズキにしっかり抱っこされているが悲鳴を上げた。

「ちょっと待ってよ!!ぼくそんなつもりは欠片もないんだからね!!!?ぼくは王子さまになるんだから、サカズキのお嫁さんなんて絶対ならないからね!!?」

そう言えばピアさんとそんな約束をしていた。魔女がらみの厄介な問題だということはクザンも判っていたが、いや、そんな重要フラグでもサカズキはきっと叩き折れるんじゃねぇかと、そういう信頼がクザンにはあるので、あえて気にしないことにしていた。しかしはそうではない。嫌なのかぶんぶん、と首を振って、サカズキの腕から逃れようとする。

「何を今更言うちょるんじゃァ。わしが嫌か」

そう言えばが怯むと確信犯かお前、クザンはぼそりとサカズキに突っ込み、そしてやはり予想通りが一瞬ひるんだ。何この、出来上がったバカッポー、とクザンは素直吐きたい。いや、そもそもなんでこうなっているんだ。確かに自分はがサカズキと会えば何か変わると、の力になってくれるとそう期待してお膳立てしたわけだが。いや、まぁ、確かにバカッポーになるんじゃね?と薄ら予感はした。

というよりも、再会してバカッポーにならなかったら殺し合い?というくらいどっちか、という二人だ。ならこの展開で良かったとも思うが、しかし、さっきまで生きるとか死ぬとかそういう問題を抱えていたはずののこの、変わりっぷりは何なのかと、ちょっと寂しくなってくる。

「!!と、友達からお願い!!」

サカズキの言葉に怯んだ、しかし、それでもやっぱり「嫁」認定だけは嫌だったのか、そんなふざけたことを言いだした。

「ぶはっ…」
「……」
「な、なんで笑うの!!?だ、だってぼく、その…!!だって、サカズキのこと、よく知らないし、そ、それなのに結婚なんてできないよ!!」

素直に噴き出したクザン、そして、何をこの阿呆はバカなことをほざいているんだ、と呆れているサカズキ。それには悔しそうに眉を寄せて、さらに続ける。が、いや、お前ほど知っているやつもいない、とクザンは思う。

「それに、デートも、したことないし」

クザンは一瞬、うららかな公園デート(笑)なんぞをしているとサカズキを想像してしまい、とても気持ちが悪くなった。いや、はいい。すごくいい。とてもかわいいと思う。こう、真っ白いワンピースでも着て、ピンクのリボンでもつけて、お弁当の入ったバスケットを一生懸命運んでいるところなど想像するととてもいい。前の幼女verでもいいし、今のこの、ちょっとおっきくなったねちゃんberでも可だ。しかしその隣にどう見てもヤクザにしか見えない男がいるのは、即座に通報する状況の実演指導か?としか思えない。

「つまり婚約期間ってこと?」

とりあえず、クザンは顔を引きつらせながらも、の言い分をまとめる。婚約期間、まぁ、健全なお付き合い期間、とてもいい。しかしサカズキには似合わなさ過ぎる。フィアンセ、とか、まぢありえない。何その気色の悪い設定、とさえ思う。だったら(以下略)クザンはなんとか「あ、許婚とかなら納得できる」と自分自身に言い聞かせた。

「時間の無駄じゃろうが」

まぁがサカズキの隣にいるのならそれでいい、とクザンは頷いたが、しかし、ここでやっぱり空気を読まない何様俺様赤犬様なサカズキご亭主。の可愛らしいお願いを、即行切り捨てた。言うに事書いて時間の無駄。ひくっとクザンとは同時に顔を引きつらせた。

「おまッ……全国の被害者に謝ってこい!!どんだけお前が優遇されてっかわかってんのか!!?」
「そういうこというからいやなの!!!サカズキって本当デリカシーないよね!?」

ぎゃあぎゃあと二人で吠えていると、ドン、と大気が軋んだ。バランスを崩したか、が足を滑らせる。当然それをサカズキが腕を引いて助ける。

「クザン」
「わかってるって」

遊んでいる場合ではなさそうだ。クザンとサカズキはそれぞれ顔を見合わせ、戦場を見下ろす。白ひげは本気になってやってくる。こちらとしてもそのつもり、何の問題もないが、しかし、世界を滅ぼす力を持った男が来る。こちらも油断は一瞬もできぬもの。

「で?貴様にはあとどれくらい時間が残っちょる」

サカズキはを一人で立たせ、その満身創痍、といった体を一度きちんと眺めた。片腕は切り落とされ、あちこち刺された後がある。止血だけは済んでいるのは幸いだが、どう考えてもどれも致命傷である。まだかろうじて生きているのは、この体がもともと死体であるからに他ならない。今のの体を動かしているのは、人間としての生命通りの方法ではない。動き出した体の中にわずかに蓄積された不死の残骸と、そして腹部に仕込んであるウンケの屋敷蛇の尻尾の力だろう。

「日が暮れるまでは何とか」

こちらも、真面目な顔に戻り、指を折って数えながら答える。正確に時間を知るにはクロコダイルが持っているであろう砂時計が必要だが、海軍にあの男が協力するとは思えない。トカゲあたりがかっぱらってくれれば楽なのだが、と他力本願なことを考えつつ、はサカズキを見上げた。

サカズキも、戦うのだ。

エドワード・ニューゲートと殺し合う。その事実をはゆっくりと噛み締めた。出会ったのは白ひげの方が先だった。彼はロジャーの好敵手でもあった。を随分昔から知っている数少ない人物だ。そういうことを踏まえて、静かに、はサカズキの大きな手を掴む。

「なんじゃァ」
「なんでもない」

ぎゅっと、は手袋越しに、サカズキの指を握り、首を振る。

きっぱりとしている。はっきりと、していることだ。どちらがどちら、と自分は決めた。白ひげと赤犬が殺し合う。心をかき乱すのはひとつだけだ。サカズキが死なないかと、それが不安だった。いや、サカズキが強いことなど、わかっている。だが、サカズキはスクアードをだましたという事実がある。白ひげが、サカズキを殺すに足り理由ができた。状況がひとを殺す。それはどんな化け物、強者にも適応されるもの。「酷いこと」をしたサカズキは、道理によって命を落とす可能性ができた。それを、ただリノハは恐れる。そして、それは、白ひげが殺されても己は構わないという答えを出す心だ。

サカズキは手を離さぬまま、片膝をつきに視線を合わせた。空いている方の手での頬を撫で、耳に触れ、そのまま指で髪を梳く。目を細めてその全てを余すことなく見つめてからサカズキは立ち上がった。

「この島で一番安全な場所はどこじゃァ」
「ねぇって、んなトコねぇよ」

即座に突っ込んで、クザンは頭をかいた。

そんな場所があるのなら、とっくにクザンはを連れて行っている。このドS亭主のところではなくて。地の果てまで逃げたとて、に安全な場所などない。見ている限り、シェイク・S・ピアも、そして白髭のところの狂い咲き姫がに確実な殺意を抱いているようだ。魔女同士の争いは、クザンにはどうすることもできない。意識下と肉体、それに真理をかけての諍い。ただの武力だけで片付く男の戦いとはまるで違う。以前一度だけ、クザンは魔女と魔女の本気の殺し合いを見たことがある。始まったら最後、挑み合うどちらかが滅びぬ限り、終わらぬ宴。不滅に無敵だとクザンが信じていたでさえ、今このありさまなのだ。こうも弱っているところを、狙われたらひとたまりもないだろう。

「わしの傍におれと言いたいところじゃが」
「ぼく巻き込まれて死ねるよ!!?」
「わかっちょる」

即答するに素直に頷くが、しかしどこか不満そうである。事実は事実であるのだが、自分がを守り切れるうんぬんの信頼がないようで気に入らない。そんなかなり理不尽な反応には顔を引き攣らせた。

「そ、そんな顔したってムリだからね!ぼくは嫌だよ!」

やけにムキになって怒るに、クザンはなんとなく嫌な予感がした。あれか?ひょっとして、本気で戦っているサカズキに見とれてしまって上手く逃げられないとかそういう展開なのか?と、口に出して突っ込んで肯定されたら本当砂を吐くので止めておいた。

「あのねぇ〜。お三方、そろそろ真面目に仕事してくれないとねぇ〜、わっしも困るんだけどねぇ〜」

ひょいっと、ここでやってきた最後の大将。そう言えばここは処刑台の下だった、とクザンは今更ながらに思い出す。ということはさっきまでのバカッポーっぷりはもう皆にバレているのだろうかと一瞬焦るが、しかし、まぁ、もしとサカズキがマヂで結婚でもしてしまったら隠すのが面倒になるだろうことは間違いないので、今から放っておいても構わないのかもしれない。クザンもある意味開き直りたくなった。

そして現れた、三人目の大将。つまりは、最年長者であるボルサリーノ。困ったような顔をしつつ、困っているようには欠片も見えぬお方。いつもと変わらぬ顔をして、ひょこひょことこちらに近づいてきた。

何度も云うが、今は戦争中である。

「それで?わっしのかわいいピアくんは一体どうして海の屑なんかといるんだろうねぇ〜。クザンくんがきっと説明してくれると思うんだけどねぇ〜」
「黄猿さん、今戦争中ですからそういう身内ネタは後にしましょう」

名指しされたら逃げられない。バシュっと、クザンはそれはもうキリッとした真面目な顔をして手を上げる。もヤベ、という顔をしてすかさずサカズキの後ろに隠れた。本当のことなど言ったら殺される。



+++



ドン、と白ひげが着地すると大地が震えた。海兵たちが声を高くし警戒する。世界最強のその男が暴れだす。センゴクが周囲に叱咤し、下知を飛ばす。

白ひげが動いたことにより、海賊たちに戦意が戻った。いや、海軍の策による先ほどのスクアードの行動、その事実はいっそう、彼らの心を煽り、殺しの意思に火をつけた。燃え上がり勢いを増すばかりのその戦場。海兵たちは気を引き締め、そして、構える。

海賊たちはみな氷の地面たる湾内へ進み、海兵たちは広場へ押し上げられていた。いや、その状況ははたして、海兵たちの後退、というのかどうか。

シェイク・S・ピアは目を細め、この戦況、戦場を頭の中に描く。己が仕官することとなったドンキホーテ・ドフラミンゴは広場の一角を陣取り、面白そうに状況を眺めている。何事か海軍には作戦がある、ということだろう。一応「で、何考えてるんですか」と聞いては見たが、答えは返ってこなかった。

海兵たちは広場へ続くその塀に立ち並び、上方から海賊たちを狙い撃つ。それでも上がろうとする海賊を、巨人の中将、ジョン・ジャイアントが阻んだ。

「広場には上げんぞ!白ひげ海賊団!!!」

小さな船ひとつ分の長さはあろう巨大な剣をふるい、海賊たちを蹴散らす。まさに敵なし、大きさって便利ですねぇ、とピアは呟き、頭の中で巨人の島に小人がいく物語でも書こうかと考える。

ガッギィンッ、と、巨大な金属同士がぶつかり合う音が大気を割った。

「邪魔だな、おい…!」
「ここは通すわけにゃいかんのだ!!!」

ジョン・ジャイアントと白ひげの武器が重なり、振動、振動、二、三回の斬り合いをしてから、白ひげはやおら武器を置き、ガッ、と虚空を掴んだ。ピアはぴくん、と猫のように目を細くしてその掴んだ先を凝視する。何もない、はずだ。だがしかし、白ひげが指を曲げると、何かがゆがむ。ひっぱるようにして、そのまま両腕を下に振りおろせば、地面が傾いた。

「ッ…」

グラグラグラグラ、と、地震などという言葉では足りぬ。揺れ、ではない。島が傾いた。ピアはもちろん態勢を崩し、そして、大柄なジャイアント・ジョズさえバランスを崩して体を曲げた。予想外の攻撃に、心得のない海兵たちはバタバタとゴミのように高い所から転がり落ちる。

「あぁ、これが名言『見ろ、人がゴミのようだ』ですか」

ぽつりとピアはこの状況にふさわしいだろう世の名言をあれこれ捜し、グラサンの閣下の言葉を引用してみるが、少し違ったかもしれない。

島も、海も傾くその力。圧倒的な、その、状況。見れば、軍艦も傾き、海兵たちが落ちていく。そんな中、大爆笑しているのは、ピアの隣にいる男だった。

「フッフッフッフッフ!!!なんてデタラメなジジィだよ!!」

すっ転んで頭でも打ってくれれば少しはマトモになるかもしれないが、七武海ともなればそう簡単に醜態は晒さぬか、しっかり足を踏ん張って立ち続けるドフラミンゴ。豪快に笑い、状況を楽しんでいる。

とりあえずピアは突っ込みを入れてみた。

「で、本心は?」
が転んで怪我したらどうすんだあのジジィ!!!」

そんな色々台無しな上司どのは放っておくことにして、ピアは再び白ひげに視線を戻した。ジョン・ジャイアント中将の心臓に向かってドゴォン、と一撃が繰り出される。内部への直接の振動は、どんな強者であろうとも逃れられることはない。内臓を破壊されたか、口から血を吐き、白目をむく中将。その体に向けられた衝撃は、そのまま地面を抉り、走り、処刑台へ向かって行く。

あの一撃は止められない。それほど強いものだ。

あれでは処刑台が破壊されてしまうだろう。ピアはエースの身はどうでもいいのだが、ボルサリーノが困ることになるのは嫌だった。何か詩篇を使って邪魔をしようとも思ったが、最適なものがない。をいびるのに使いすぎたと反省していると、処刑台へ向かっていた衝撃が突如方向を変え、町へ逸れた。

なぜ逸れたのだろうか、ピアは訝しみ、そして砂塵の晴れた処刑台を見つめる。

「笑っては失礼でしょうが、笑えませんか、あれ」

見えてきた人の姿に、ピアはとりあえず、指を指して上司に同意を求めた。



+++




中年3人が真面目にこう、両手を掲げている光景っていうのは、シリアスな展開でも結構笑えてしまうものだと、一番近くで見てしまったは、なんとも言えない顔をしながら頬をかく。白ひげの衝撃を止めたのは、3大将。覇気なのか何なのか、それは覇気を使えぬには判らぬが、しかし、まぁ、何かしたのだろう。

「さっさと包囲壁張らねぇからだ」
「貴様の氷の所為じゃろうがい……!!」
「オー…君が溶かせばいいよォ、サカズキ」

口々に言う、ドン、と処刑台の下に並んだ3人組。海軍の最高戦力と呼ばれる3人の中年男性。おそろいのコート☆というのは今更だが、考えれば何だかこう、正義のヒーローのようにも見える。いや、でもその態勢はちょっと変だよ、とは首を傾げつつ、ぽん、と手を叩いた。でもサカズキはかっこいいからいいと思う。

それにしても、と、は下を眺めた。

「エドワードくん、相変わらず無駄につよいよね。あっちこっち破壊されちゃったら街の人が住みづらくなるよね」

いくら、戦場になることを想定されてできた港とはいえ、ここまで荒らされれば修復にも時間がかかろう。港は普段軍艦が停泊するだけでなく漁師たちも利用しているのだ。迷惑行為は余所でお願いします、と眉を寄せて呟いて、は立ち上がる。

海軍は白ひげの攻撃にも怯まず砲弾を打ち続けた。が、海賊らはそれに臆することなく突っ込んでくる。

「オォ〜、怖いねェ……」

それを見下ろしながら、ボルサリーノが、これまた全く怖いと思っているようには聞こえない間延びした声で呟く。

「まァ、全員が相当お怒りだな、こりゃ」

ぽりぽり、とクザンは頬をかく。こちらにまで、戦争の勢いが伝わり、ビリビリと空気を震わせていた。うん?とは三人を振り返る。

「エドワードくんがこっちに来る前に戦うんじゃないの?」

てっきりそうだとは思っていた。白ひげを処刑台付近に近付けてはこちらが不利になる。だから、白ひげが船を下りてからすぐにでも、大将らが仕留めに行くのではないかとそう判じていたが、三人は動く気配がない。

後方にはパシフィスタ、前方から海軍がはさみこめば逃げ場もないだろうに、と首を傾げていると、それにクザンが答える前にバキバキと、ゆっくり、何かが持ち上がる音がした。

「なぁに、あれ」

おや?とは再び湾内に顔を戻して目を開く。ゴゴゴ、と低い音を響かせて湾内をぐるりと囲むように現れたのは壁である。なるほど、作戦、ということかとも合点がいった。妙に海兵たちが広場へ上がっていたわけである。鋼鉄製、に見える巨大な壁が海賊たちを完全に取り囲んだ。その壁の窓からは砲口が覗いている。

、離れちょれ」

しかし、一角閉まっていない場所がある、とが顔を覗きこませようとした、その首根っこをサカズキが掴んだ。ひょいっと、後ろに放り投げる。何をするのかと少し離れて見ていると、サカズキの体からゴボリ、と大量のマグマが溢れだす。両腕から背後にかけて、溢れ、高熱を発するそのマグマを赤犬はそのまま空へ向けて突き上げた。

「流星火山」

ぼそり、と呟けば、上空に飛ばされたマグマが、一つ一つ、巨大な燃え盛る隕石のように固まり、落下していった。轟音、大地を抉り溶かす容赦のない攻撃が、流星群のように湾内に降り注ぐ。

氷を溶かして足場を奪う、その為のものだ。

海賊たちの悲鳴が響き、辺りが地獄のように、燃え崩れていった。



Fin



……何この長さ。