この世の終わりの風景に、それはよく似ている。大地が震え戦慄き、海が熱せられて火山が爆発していく。海底からはマグマが噴き出して、大津波が島を多い、何もかもを飲み尽くす。これは、そういう世界の終り日によく似ている。そんなことを思いながら、トカゲは、ハテ、と小首を傾げた。いくらこの自分といえども世界の終りに立ち会ったことはまだない。だというのに、今のこの光景は酷似していると、そのように思えているのだ。いやはや人の想像力のたくましさ。ころりと笑いつつ、トカゲはデッキブラシに腰掛けて一人悠々さくっと、逃避。処刑台付近からこちらに向かって勢いよく、落下していく火山段。一つ一つがあまりに強大。あまりに苛烈。まるで容赦というもののないその攻撃は、氷の足場を奪い海賊たちを海へ沈めた。いや、海に沈めばまだましか。マグマに溺れる海賊は骨も何も残さず消えた。先ほどまで己の居た場所がすっかり惨劇になっているのを目を細めて見下ろして、トカゲは鼻を鳴らす。
のことが気になった。先ほど少し、その方向を見てみたら、赤犬と一緒にはいたけれど、前のような幼い表情をするようにはなっていたけれど、しかし、妙にその、「戻っている」という状況が、どうもトカゲには引っかかった。
の心には赤犬がある。どんなに当人が否定しても残っていると、そう突き付ければはそれを認めてはいた。しかし、それでもあの魔女は、この世で誰よりも魔女と呼ばれるにふさわしいあの生き物は、たとえそんな事実を受け入れたとしても、それでも、開き直れるはずはないのだ。
自分のしたこと、これからしなければならないこと、何もかもを一切合財理解しているそのうえで「だからどうした」と言える、その強さがに、あるはずがない。トカゲは、そうするべきだとは言った。提案はした。だがしかし、が、そうはなれないことなど、判っていた。それでもそう言ったのはただの己の自己満足である。トカゲはが本当にそうなる、とは欠片も思っていなかった。
「どういうことだ?が、開き直るなんてそんな展開は、ないはずだ。そんなことはできないはずだ。できたとしても、それならなぜ、おれはまだここにいる?」
キョトンと顔を幼くしてトカゲは己の掌を眺める。別段透き通っていたりとか、そういう状況にはなっていない。しっかり今も存在している。この世界に馴染んでいる。
眉を寄せて、トカゲは赤犬の近くにいるを眺めた。
少しだけ成長したその体に、一度は背まで伸びて、そして切り落とされた色褪せた夕日色の髪。あちこちが傷だらけで満身創痍。もう時期に死ぬのだというその体。トカゲにウンケの屋敷蛇を渡したのだから、回復する手立てはない。あとはただ、終わりを待つだけの体。その顔に浮かんでいるのは「本気で外道なことをしてるサカズキがかっこいい」とかそういうボケた感情だろうが、しかしその、片方しかない瞳のその奥、なんぞ潜んでいやしないか。
が開き直れるはずがないという確信がトカゲにはあった。いや、普段から傲慢・尊大でわがままし放題がだが、しかし、それは無関心ゆえに出た性質である。は、現在さまざまな記憶を取り戻し、そして、自分が何なのか、その自覚もあるのだろう。傍観者でいるからこその徹底した傲慢さ、が適応されない。「自分自身の問題」を、開き直れるほど、あの娘は強くはなかった。
そう断言する理由は、トカゲの存在そのもの、である。
トカゲは、元の世界ではだった。と同じく海の魔女と、そう呼ばれていた。そして、その世界では赤犬に心惹かれねばならぬ道理があった。それが嫌で、赤旗を己の全てとしたい、そのためにトカゲはこの世界へやってきた。
トカゲの世界は、の世界の二次創作。つまりは、の世界で叶えられなかった願望が、
トカゲの世界を作り、が持てなかった何もかもを、トカゲは持っていると、そういうわけだった。
判り易く言えば、胸の大きさや身長など、にはなくてトカゲにはあるもの、である。
この世界に来てから、トカゲは段々と自分「らしくない」という行動になっていて、インペルダウン、あのレベル5、5の一室にて、そういう自分を鼻で笑い飛ばした。開き直った。己の本分、傲慢・尊大で当然、というその領分を取り戻した。今のが、開き直ったとしたら、己と同じように、ということだろう。同じように「今まではちょっとらしくなかった」とそう思い、そして「だから、うっとうしいのは嫌だからねぇ」と、目を細めて、開き直る。そしてあとは正直に、周囲の困惑お構いなしに、ただひたすら突っ走る、と、そういうことをしての開き直り。
確かにの「傲慢・尊大さ」に当てはめて考えることもできる。だが、本当にそうなのか。本当に、の性格を考えて、そう、開き直ることが、結果、ということにできるのだろうか。何か、違和感をトカゲは覚えた。一見、らしい性格、そうなるのが道理、にも思える。だがしかし、妙に、何かが引っかかる。
そしてもし、本当にが赤犬と、お互いお互いを、思い合うその関係になることができたというのなら、今、自分はここにいるはずがないのだ。トカゲの悲願の成就、そして、トカゲ(別世界の)そのものの存在理由がなくなり、トカゲはこの世界から弾かれるはずだった。だがしかし、そうはなっていない。相変わらずトカゲには五感があるし、しっかりとから貰ったウンケの刺青も腹部にある。
「自身すら欺くことは不可能なわけじゃあない。その、決意は本物か?」
目を細め、トカゲはぽつり、と呟いて、とりあえずはクロコダイルを探すことにした。
+++
シャボンディ諸島、広場には大勢の人が集まり、巨大なモニターに注目している。先ほどまで誰もが固唾を飲んでそのモニターから流れる映像を見ていたが、今は真っ黒い画面になっているだけだった。口々に、映像を流せと海軍に詰め寄る雑誌記者ら。突然海軍本部の映像が途切れた。白ひげが仲間を売った、うんぬんと、まさにこれからだというそのタイミングに途切れた。
ドレークは広場から離れた場所からそのモニターを見つめ、掌を握りしめる。戦争、戦争、戦争がはじまり、そして、起こっている。どれほどの命が失われたか、正しいものがどこにあるか、など、そんなことを論じている場合ではない。ただ、ついに本部戦力として投入されたパシフィスタ、そして、容赦ない海軍の作戦を見て、胸の内に湧き上がるものがある。怒りか、と静かに己に問うてドレークはそれを否定した。怒りなど、そんなものを抱えてはいない。そうではない、が、しかし、思うことがあった。
いや、それは今はいい。と、ドレークは途切れた映像モニターから顔を背ける。壁に寄りかかり、未だ頭の中にこびりついたある姿を、目を閉じて瞼の裏に浮かび上がらせる。
戦場に、がいた。姿は多少変わっていたが、しかし、間違いない。あれはだった。一体、彼女に何があったのか、それはドレークにはわからない。シャボンディ諸島で別れた時は幼く、そして無邪気に人の背中を蹴り飛ばしてコロコロ笑う有様だったが、腕を切られ、目を抉られ、胸を刺されていた。
「ドレーク船長」
唇を噛み締めるドレークに、そっと船員が声をかけた。淡い色の髪に黒衣のクルー。案じているというにはいささか表情は乏しいが、付き合いが長ければ、その琥珀の瞳に深い感情が込められていることを知る。ドレークは知らず片手で剣を強く握りしめていたことに、船員の声で気づき、手を話す。
「わかって、いるんだ。俺は、何もしてやれない」
相手に、ではなく自身に言い聞かせるようにドレークは呟いた。目の前に突き付けられた光景。凄惨な有様。戦場ゆえのもの、ではなく、ただ憎悪によって駆り立てられた、一方的な虐待。それを受けるは叫び声ひとつあげなかった。そんな程度の責苦などその心には何も残せぬと、その表れ。いや、違うのだ。はきちんと判っていた。誰も助けには来ぬから、と、泣いても意味のないことを、それを良く、判っていた。
「わかっている」
何度も呟いて、ドレークは目を伏せる。誰も、何もすることができない。ただ通り過ぎていくだけ。何かをしようと思えば、自分自身の人生そのものをかけなければならない。ドレークはそうはできなかった。普通は、誰も、そうはできない。だからこそ、は、あぁ、なのだ。
ドレークは、そのの光景を焼き消すように、大将赤犬が堂々と開き直った姿を晒したものまでもしっかり観ている。それでも、己のその持論を変えるつもりはなかった。なるほど、確かに、赤犬は、変わられた。相変わらずの独占欲はあるようだが、しかし、自身を向かい合う気になっている、ということはわかった。妻発言についてはあまり突っ込みたくないが、しかし、赤犬は何かの覚悟を決めたと、そういう姿に見えた。だがしかし、それでも、やはり、誰も、には何もすることができないのだろう。
(世界が揺れる。ひとが揺れる。魔女と呼ばれた彼女の声が、夜が近づくにつれて、段々と遠くなっていく)
なぜ誰も、の手を握り返してやれないのか、と、自分とてそうはできぬくせにドレークはそんな、自分勝手だが、しかし、切実な願いを思い、ザッ、と広場を背に歩きだした。
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白ひげの本船が燃えていく。容赦のない攻撃、あえて狙ったわけでもなく、あっさりと、燃え、焼き尽くしていくその光景をはただ黙って見ていた。エニエス崩壊後、ゴーイングメリー号が燃えてしまった時のことを思い出す。ルフィたちの悲しみ具合を見ていたから、自分などが「悲しい」と思うのはおこがましいと、はそれを「悲しい思い出」とはしなかった。結局、思えばゴーイングメリー号は、海賊旗を掲げてから、そうして、燃えて海に沈むまでが唯一共にした船ではあったが、しかし、ルフィたちと同じように悲しむことはおこがましいと、そう己で決めていた。そうしていたことを、今思い出す。モビーディック号が燃えていく。随分と長い間、白ひげを、エドワードを見守ってくれていた船だ。あの男がどんなことをしてきたか、あの男がどんな思いを抱えてきたか、恐らく、知っている唯一のものが今、消えていく。
白ひげの船を破壊しようと、特別な意図をして滅ぼされるのではない。さまざまな目的をもった攻撃で、死んでしまうモビーディック。人で言えば流れ弾で大事なパートナーが死ぬようなもの。さぞかし無念だろう、とは思い、首を振った。
船に魂があるのなら、あの船は白ひげと同じだ。今日という日がどういう日になるのか、覚悟をしてここへ来たに決まっている。それを「気の毒に」と思うなど、それは船に対する侮辱だ。首を振り、は静かに目を伏せて頭を下げる。今この世界の終りに良く似た状況で、どれほどの海賊が死に絶えようとなんだろうと、それは自分には関係ないが、しかし、モビーディックが滅びるその点だけは、を感慨深くさせた。
丁寧に頭を下げて、片足を引く。
「さようなら」
また一隻、あの頃の海を行った船が消える。バチバチと燃えて行く勢いは留まらない。容赦のない炎、火山弾の熱気はここまで来ていた。は顔を上げて、この位置から見えるサカズキの背を見つめた。離れていろと、そう言われたがはこれ以上サカズキから離れるつもりはなかった。サカズキの攻撃の余波を受けぬギリギリの位置。一歩前に進めば、誤ってマグマに飲み込まれても文句は言えぬ位置。どこまでが危険で、どこまでが安全か、わからぬほど他人というわけではない。はこちらを振り返ることなく、火山弾を飛ばしているサカズキの背、その真っ直ぐとした背に手を伸ばしたかった。
離れていろ、と言ったその意味は、何もとばっちりを食らわぬように、というだけではない。は炎を恐れる。燃え盛る、人、悲鳴、においを恐れる。それをサカズキは心得ていた。だから、これから自分がすることがを恐れさせるだろうと、そう、考えての言葉であった。
(へいきなのに。サカズキの炎なら、何も怖くないのに)
飛び交う人の悲鳴、悲鳴、怒声。逃げようと、壁を破ろうと足掻く音。ドゴォン、と、大きな音がして、の体が宙に浮いた。壁に向けた白ひげの一撃だ。の軽い体はあっさりと地から浮き、吹き飛ばされる。
処刑台の上のため、障害物はそう簡単にはなかろう、そのまま建物まで叩きつけられるか、というところ、ひょいっと、の足を掴んで止めたのはガープだった。
「おや、助けられてしまったねぇ」
吹き飛んで、真上まで飛ばされてしまったらしい。どういう移動の仕方をしたんだろうかと自分で突っ込みを入れながら、はにへら、と笑ってみる。
「すっごいね、あの壁。ベガパンクくんの仕業かい?」
「礼ぐらい言え。全く、吹き飛ばされてこんなところまできおってからに」
ガープは顔を顰めて、軽口を叩くをたしなめた。助けて貰ったのだから、まぁ、一応お礼は言うべきかとは素直に「ありがとう」と言ってみた。そしてそのままガープは自分の隣にを下ろし、またどっかりと、座り込む。さりげなく、エースの隣ではなく、逆にを配置している辺り、は笑いたくなった。
「大丈夫だよ、べつにぼくはエースくんを殺してしまおうなんて思ってないしね」
「……わしが止める理由はなかろう」
ふん、と鼻を鳴らしガープは胡坐を組んだまま、腕を組む。何があろうとここを離れぬのか、何なのか。はこの位置なら色々眺められると喜んで、自分も座り込んだ。そしてこちらを睨むように見ているセンゴクを見上げる。
「さっきは励ましてくれてありがとう」
「お前一人の失態で作戦を中止するわけにはいかん」
「ぼくも自分が足手まといになるなんて展開はごめんさ。おかげで目もさめたしね」
いい具合に罵ってくれて本当にありがとう、とはこの上ない笑顔を向ける。同じようにニコリ、とセンゴクも目を細めて笑みの形を作った。
「何、いっそそのまま首を落とされてくれても私としては文句どころか手を叩いてやりたいところだったが、役に立てて何よりだ」
「お前らここで嫌味合戦なんぞするんじゃないぞ。全く」
絶対零度のブリザードが吹き荒れかけた時、ガープがぽつり、と呟いた。まさかこの男に常識的な突っ込みをされるとは心外であると、とセンゴクは揃って顔を顰めるかけるが、そのままお互いにこやかな表情で、頷いた。
「そうだね。今はそんな程度のことよりも、この状況の方が気になるかな」
「そうだったな。たかが魔女ごときのことで時間を使うなどもってのほかだ」
ピシッ、と再び空気が凍りつく。エース処刑のために刃物を持つ二人の海兵の手もカタカタと震えてぶつかり合う刃が小さく音を立てた。ごほん、とセンゴクは咳払いをひとつしてから、拡声器に向かう。
『作戦はほぼ順調。これより速やかに、ポートガス・D・エースの処刑を執行する』
ぴくり、とほんの一瞬だがガープの眉が跳ねたのを近くにいたは気付いた。エースの処刑が決まったと、そう、がインペルダウンに行く前に、話していた時のガーブの顔を思い出す。思えば、この男はこの場を、どういう思いで挑んでいるのだろうか。その絶望さ、苦しさは己程度には推し量ることはできまい。家族を、自らが所属する機関によって失う。そうと決めたのは個々とはいえ、それでも。苦しむその心だけは、消せるものではないだろう。辛いことばかりが起る海で「英雄」と呼ばれるほど生きてきた老人。守りたかったのは何なのか。最初に、守りたかったものが、何なのか。それはの知るところではないけれど、しかし、世界を守るだの、見知らぬ人々を守るだの、そんな大層なものを掲げるその前に、ガープは、己の目に入るひとを守りたかったのではないだろうか。
そして、何よりも家族を守りたかったのではないだろうか。
それなのに、今ガープは二人の家族を失おうとしている。エースに、ルフィ。海軍本部の正義の意思によって、彼ら二人は殺されようとしている。ロジャーの息子とドラゴンの息子。その事実は二人をけして許しはしないだろう。
はガープを見ることを止めた。声をかけることもしなかった。およびもつかぬ覚悟を決めた人に対して、悪意のある言葉を放つ趣味は、さすがになかった。
ぐらり、と揺れる世界をただ眺めて、そして、おや、と目を開く。
「リトル・オーズJr、なんだい。生きていたのかい」
ゆっくり立ち上がる、巨大な体。包囲壁の唯一の穴を作った巨人以上に巨人の体が起き上った。
「エ、エース、ぐん……」
「オーズ!!」
意識は混濁しているのだろう。それでもエースの名を呼ぶ巨人、エースが顔を上げて、応えるように友の名を叫んだ。まだかろうじて息がある、という程度だろうが、しかし、巨人の回復力を甘く見ていると取り返しのつかないこととなる。この大きさは厄介だろうと思い、は立ち上がって剣を抜いた。
「おい、待てッ、何を…!!!!」
「邪魔されたら、ぼくは嫌だなぁって」
立ち上がるが何をしようとしているのか、薄らとは察したのだろう。エースが声を上げる。止めようと腕を動かすが、手錠で強く拘束されている身、どうすることもできない。ガッジャン、とエースの鎖が音をたてたのとほぼ同時に、は剣を縦に振り下ろした。
「ッ!!!オーズ!!!!!!」
くっきりと、一直線にオーズの片腕が切り落とされる。落下する腕が多少海兵を押しつぶしたが、避けられない方が悪い。は剣を払い、オーズの二の腕から噴射する血が海へ流れるのを眺めた。
「掴む腕がなかったら、どうやって救おうっていうんだろうねぇ」
そして己の、失った片腕、肩を撫では首を傾ける。
「もう片方も、必要ないよね?」
確認して、了承を得るそのまえに剣を振り上げる。それが振り下ろされる、その前に、突然包囲壁の一角から水の柱が上がった。
+++
突如立ち上がった水柱は、そのまま折れ曲がり壁を越えてこちらがわへと落下した。赤犬、黄猿、青雉と、三人が揃ったままその柱を眺め、中に誰ぞいることを同時に悟る。サカズキは目を細めて、その中にいる人物を確認した。折れたマストにしがみついて、ここまで来たらしい。
海水が引き、着地した麦わらの海賊をサカズキは見下ろす。
この、子供が麦わらのルフィ。
アラバスタではクロコダイルを倒し、エニエスを落とし、ロブ・ルッチを倒した。スリラーバーグにてモリアーを倒し、その後シャボンディで世界貴族を殴り飛ばし、黄猿から逃れた、ルーキー。
インペルダウンからの脱出と好き放題やってここまで来たのか。サカズキは眉間に皺を寄せた。ドラゴンの実の息子。世界一の犯罪者の血を引く、海の屑である。生きてここから出すことは、断じてならない生き物だ。
「あらら、とうとうここまで……お前にゃまだこのステージは早すぎるだろ」
面識があるらしいクザンが、いつものようにだらけきった態勢のまま忠告するように告げる。英雄、ガープ中将の孫であるという事実を踏まえての言葉であるとしたら、クザンの意図はどういうものか。サカズキは、クザンが一度この海賊を逃がした話を聞いている。クロコダイルの借りを返すためだと言っていたが、あの時息の根を止めておけばこういう状態にはならなかっただろうと、嫌味の一つでも言ってやりたかった。
「堂々としちょるのう。ドラゴンの息子」
力の差がわからぬほど愚かではないだろう。この自分と、そして大将たちを前にしても、それでも目の前の海賊の戦意は消えなかった。能力者、海水に浸かったダメージは未だ回復していないだろうに、呼吸を整える間もなくこちらに攻撃をしかけてきた。手に抱えた柱を振りおろしてくる。
「エースは返してもらうぞ!!!」
柱がこちらに届く前に、クザンが凍らせようと手を出したが、サカズキはそれを制して柱を燃やし尽くす。そのまま抱えていれば伝って体を焼くところであったが、しかし、麦わらの海賊は手を放し、燃えるものをまるで怯まず、蹴り飛ばして割った。小さな火山弾がこちらに降りかかってくる。考えてはいるようだが、それがこちらに効くわけがない。サカズキはマグマの身、この程度でどうということもなく、ボルサリーノは粒子となれば影響もなかった。この程度攻撃とも言わん、と侮蔑を孕んで呟いて、サカズキは隣のクザンが少し溶けていることに気付いた。
このくらいの熱量、逆に凍らせろと突っ込みを入れる意味で、サカズキはクザンの足を蹴り飛ばした。
Fin
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