「!!!!

ぐらりと倒れ海兵の腕に収まるを見てクザンが声を上げた。首から血を流し、服がドス黒く染まっている。
取り押さえられた犯人には一瞥もせずに、クザンが駆け寄ろうとする脇を、サカズキが通り過ぎた。

(あ、あのサカズキが走った!!!?)

ク○ラが立った!以上の驚きです。
あの、サカズキが。ゆっくりと歩き威厳たっぷりの男、息を切らせたことなど若い訓練時代の一時のみである。その後階段を駆け上がるような昇級ぶりだったが(まぁクザンも)実際に走っているのを見たのは、随分久しい。

「た、大将赤犬!!?な、なぜこちらに…!!」
「かせ、それはわしの身内のモンじゃァ」

突然の大将の登場に驚く海兵たちを放り、を抱き上げている海兵に短く告げた。

「え?た、大将のお身内…?」

ちょっと待て!とクザンは叫ぼうとしたが、間に合わなかった。

「わしの妻じゃァ」
「……は?」

クザンは、がっくりと肩を落とした。
普通に言いやがった、あの男。

いや、サカズキに「ちょっと冷静に考えろ」と言ったところで無駄なのはわかっている。
だが、普通にの外見は若い通り越して幼い。

対するサカズキは、20年前なら、まぁいけただろうが、今は普通にオッサン。
見かけ十代(ギリギリ15歳位)の少女を妻とか言うんじゃない。

「お、奥方…?」
「大将夫人、こ、この少女が、ですか…?」

予想通り、海兵らに動揺(大将ロリコン疑惑)が浮かんだ。
それで硬直してしまう海兵らなど気にもせず(気にしてください、世間体とか)サカズキはさっさと海兵の腕からを預かる。
そのまま待機している医療班の方へスタスタと行ってしまった。

その顔は普段どおり厳しいが、しかし、どこか、柔らかな空気がある。それがわかるのはクザンだけで、周囲からすればどう見えるのか。
クザンは目ざとく、を抱き上げた瞬間サカズキがほっと息を吐いたのを確認した。
の無事を喜ぶ、というのもあるだろうが、一番は自分の腕の中に が戻り、先ほどまで感じていた恐怖や不安が消えたゆえの安堵だろう。

(…愛、あるんじゃないの。全く)

サカズキが言葉でを愛している、とう言っているのをクザンは聞いたことがない。も、一度しか聞いたことがないらしい。

それを時々クザンは不思議に思っていたのだが、かつてのトカゲ中佐の名言「言葉だけじゃない、目も腕も指先も、語る」という言葉の通りである。

とりあえず見た限り、の怪我も死にはしないレベルだろうと判じ、クザンは未だ硬直している海兵らを振り返った。

「あ、青雉…あの、ほ、本当なんでしょうか…?」

赤犬は説明不足だったが、きっと残った青雉なら何かわかるように説明してくれるに違いないと、海兵らが期待に満ちた目を向ける。
クザンは一瞬面倒くさくなったが、一応、最高権力は威厳がなければならぬもの。

…大将のロリコン疑惑なんて冗談じゃねぇぞ。

ぼそり、と聞こえぬように呟きながらにっこりと顔に笑顔を浮かべる。
なんで自分がサカズキの尻拭いをしなければならぬのか。
これもあの子の幸せのため、と諦めつつ、クザンは説明を試みた。

「あー…あの子ね。うん、本当よ」
「そ、そうですか…」
「でも、あの子あれでおれらより年上なのよー。まぁ、グランドラインだしね。見かけはあぁだけど、別に、サカズキがロリコンってわけじゃないから」
「い、いえ、別に大将赤犬が…幼女趣味だとは…!!」

思ってるでしょ。

クザンの説明よりも、その疑惑に反応するってことは、まぁ、そういうことじゃないのか。
気持ちはわからなくもないが、クザンは苦笑し、周囲をぐるっと見渡す。

「邪魔して悪かったねぇ。それじゃ、おれも行くからあとは宜しく頼むよ」

ちらりと見れば、犯人らしい男が手錠をかけられている。その袖がの血で染まっているのを見てクザンも聊か腹が立つ。遠目で見ていて、が自分から刺されたのはわかっているが、それでも、あの子、もう何の力もない、ただの小さな、あの子に怪我をさせたことが腹立たしい。

ぴきりっ、と周囲のモノが軽く凍った音を聴き、クザンは「あー」と間の抜けた声を上げた。

「ありゃー…俺も、まだまだ愛あるじゃないの」

誰にともなく小さく呟き、とりあえずはサカズキの後を追った。


*



消毒液のにおいでパチリと目を開くと、ベッドの傍らの椅子に座り、ベッドに両肘をつき、祈るような体勢で 顔を俯かせているサカズキの帽子が見えた。ちらりと見えた口元は引き結ばれている。眉間にはきっとコインがはさめるくらい皺が寄っているんだろうと思えば笑えるが、は目を細めるだけにしておいた。

見慣れた天井である。
てっきりどこかの医療施設にでも入れられるかと思っていたのだが、自宅だ。

「おはよう」

けろっとした声を意識して出そうとしたが、出たのは掠れた乾いた音だった。口の中が渇ききって、張り付く。

サカズキが顔を上げて、目を揺らした。それには気付かぬふりをしながら はにこりと笑う。

「…気がついたか」
「うん。あのね、別に意識を失ってたわけじゃないよ」

は別に気絶したわけではなくて、寝ていただけだ。やっぱりお昼寝は大事!としみじみ思いながら身体を起こす。と、それをサカズキが押し留めた。

「まだ寝ていろ」
「でも、」
「輸血が終わるまで待て」

おや、とが自分の腕を見ると、手首に赤い管が繋がれていた。自分の血液型が何なのかは知らないが、そこはちゃんと普通だったらしい。

「これ、誰の血?」
「わしじゃァ」
「…普通輸血って、直接じゃなかったっけ?」

その辺は何か、まぁご都合的な何かだろう。

「貴様の身体の中に入るのは、何もかもわしのものだけでいい」

クザンがいたら、それは下ネタかと突っ込みを入れただろうが、生憎は気づかぬし、サカズキも心底真面目に言っているのだから、邪推することでもない。

はじっとサカズキの顔を見つめた。

「採血するの、痛くなかった?」
「阿呆。貴様の方が、痛かったじゃろうに」
「ぼく輸血は初めてだよ」
「そうか」

改めて血の色を見るとくらり、と力が抜けた。それで天井に仰向けになったまま、サカズキに額を撫でられる。
ゆっくりとした手のひらの動きを感じながら、は息を吐いた。

「無茶をするな」
「どこを切ったらマズイか、知ってるよ?」
「そういう問題じゃアない。わしが来るまで待てばいいものを」
「サカズキが仕事をほっぽり出してきちゃう前に自分でなんとかしようと思ったの」

焼け野原にされると今後いろいろ外で歩けなくなりそうだし、と笑って言えばサカズキの眉間に皺が寄った。

「二度と、勝手に外に出るな」
「ごめんね」

は繋がれていない方の手をのろのろとサカズキの方へ伸ばし、その頬に触れた。
ぴくり、と小さく動くサカズキがその手を握り返す。

「……心臓が止まるかと思った」
「そんなヤワじゃないでしょう」
「貴様が倒れているのを見たとき、頭の中が真っ白になった」

サカズキは冗談は言わぬ、それがわかっているのでは黙りじっとその目を見つめる。

「貴様はもう、怪我を死ぬただの人間だ。病でも死ぬし、傷を負ってもすぐには
治らない。ただの人間だ」

繰り返し言われずとも、もよくわかっている。

だから、サカズキがを閉じ込めておきたがっているのだ。
世の中が平和ではないことは大将のサカズキはよくわかっている。何があるのか、わからない。

今のには何の力もない。自分では身を守ることも出来ぬ、弱い、ただの少女。

唯一持っているものといえば人脈だが、まぁ、それはそれ。

そしてかなり正直な話をすれば、はサカズキに守られる気などさらさらなかった。
サカズキもそれがわかっているのだ。だから、を閉じ込める。

何かあったとき、はけしてサカズキを頼りはしない。だから何もないように、頼られぬことを直視せぬように、を閉じ込めるのだ。

(…へん、なの)

はサカズキの大きな手を取って、手袋の嵌められていない手、目の前に近づけながらその掌を指でなぞった。大きな手だ。それにとても重い。が両手で持ってやっと収まるくらい、広い。この手が世界を守っている、などと大きなことは言わぬが、しかし、この手に守られているものは、どれくらいあるのだろう。

思えば、サカズキは大将なのだ。
どれほどに自分を大事にしてくれていても、は、サカズキが大将であることをけして頭から離さない。

だから、自分はサカズキに守られるつもりはないのだ。

「ぼく、サカズキの手すきだなぁ」

大きな手、指でゆっくりと触れて笑いかければ、サカズキが目を細めた。
サカズキは、けして愚かではない。むしろの知る限りは、随分と賢い部類に入る。
が何を考えているのか、何もかもわかっているのだ。

わかっていて、サカズキはを守ろうとする。

(昔と、おんなじ。ぼくも、サカズキも、なんにもかわってないね)

大事なことはお互いけして口にしない。それでも、幸せだとは感じるし、サカズキも、それ以上を暴かなかった。
時々、は思うのだ。
これが蝶の見ている夢なら、目が覚めて、ぼんやりと起き上がり、川に写った姿を、どう思うのだろう。

もしもこれが、の夢なら、起きている自分は、今何をしているのだろう。

幸福、なハズなのに、どうして、こんなに背中が痛いのか、には解らなかった。

「すき、大好き。サカズキの、手、だいすきだよ」
「好きなのは手だけか?」

にっこりと笑って言えば、不機嫌そうな顔をされた。おや、とは目を見開き、そしてふわり、と目を細める。

「顔も好き。声も好き、サカズキの全部が好き」
「当然じゃァ」

ふん、と満足そうに鼻を鳴らされては笑う。そうしていると視界が暗くなった。
おや、と思っていると、すぐに戻り、そしてから顔を離したサカズキがぽん、とその額に手を当てる。

は唇を押さえて真っ赤になったが、それはそれ。
いつまで経っても、サカズキのドアップは緊張してしまうのでしょうがない。

トカゲは「別の意味であの顔が間近にくると、心臓に悪い」と言っていたが、それとは違う。

「寝ていろ」
「でも、ご飯の準備が」
「わしが作る」
「材料ないよ?だから買いに行こうと思って外出たの」
「クザンに買いに行かせる」

クザンくんの人権ってどうなっているんだろう。はぽつり、と気にはなった。

「何がいい?」
「えっと、じゃあ素麺」

なるべく手間の掛からぬものを、と思って選べばサカズキが即座に「流し素麺にするか」と言ってきた。
何がなんでも手間を加えたいらしい。

「夏ももうじき終わる。いい機会だ。一度してやりたいとは思っていた」
「流し素麺、ちなみに誰が上から流すの…って、まぁ、決まりきっているよね」
「当然じゃァ。招いてやるのだから、それくらいの労働はしてもらう」

だから、クザンくんの人権ってどうなっているのか。
まぁクザンなら能力フル活用でいつでも冷たい素麺が味わえるのでも歓迎である。

「折角だし、花火もしたいなぁ」
「蚊も寄ってくる、蚊取り線香も買わんとならんか」
「三人だけだけど、スイカ割りしてもいい?」
「わかった」

次々とクザンの買出しリストが増えていくが、あれこれ考えるのは楽しかった。
それで自然はしゃいだ声になっていると、ふと、サカズキが目を細めた。


「なぁに?」

じっと、見つめられる。逸らさずにいれば、そのまま何も答えずに、サカズキが立ち上がった。
不興を買ったわけではないことは解っている。何を言いたいのかも、はわかった。だから、とくに何も言わず、その背が部屋を出て行こうとするのを見つめる。

扉に手をかけて、一度サカズキが立ち止まった。
それで、振り返るか、振り返らぬかと一瞬の葛藤、結局は振り返らずに、そのまま出て行く。

見送って、はゆっくりと眼を閉じた。
指先に残るサカズキの手の感触を思い出しながら、息を吐く。

「サカズキは、何も悪くないのにね」

ぽつりと呟き、天井を見つめる。

きっと、サカズキはクザンと一緒に買い物に行くのだろう。あれこれと、スーパーに長身の大将が二人、似合わなさ過ぎる、それで、サカズキもクザンも卵やみかんの相場など知らないから、首をかしげて、眉間に皺を寄せながら、あれこれ買い物をするのだ。

それを想像すればころころと笑い声を上げられる。

「ぼくは、幸せだよ」

誰に対してか知らぬが、言いきって、は瞼の裏に浮かんだ、真っ赤な髪の少女、青い目の、黒いドレスを着た、弓を持った少女の姿を振り払った。





+++




「次は野菜じゃな」
「あのさぁ。なんでスーパーで一気に買わないでこんなにちょこちょこ、魚屋とか八百屋とか周らないといけないの」
「鮮度が違う」

そうきっぱり言い切って、先ほど乾物屋で買ったそうめんの入ったビニール袋を左手に持ち帰るのは、海軍本部きっての「絶対的正義」の体現者。海兵らの畏怖と経緯を一身に受ける大将赤犬殿。珍しく海兵帽子ではなく、ただの白キャップに、色合いの地味なスーツである。それでも逞しい身体からは溢れんばかりの精気が感じられた。

その隣を面倒くさそうについていきながら、クザンは何度目かになるかわからぬため息を吐く。

サカズキの趣味が料理だということは、まぁ別に本人が隠すことでもないと思っているおかげでいろんな人間が知っている。

海軍名物の海軍カレーも今のところ「一番美味く作れるのは?」と聞かれればマリージョアの料理人を差し置いてサカズキ、と、お世辞抜きに上げる人間が何人いることか。

であるから、長年の付き合いでクザンもよく知っている。だからサカズキが料理の素材にこだわって買い物も多少は面倒なんだろうなぁ、と覚悟はしていた。だがしかし、その覚悟のあったクザンでさ、正直そろそろ飽きてきた。

(っつーか、ただ流しそうめんするだけじゃないの…?)

のことだ。手間の掛からぬ料理ということでリクエストしたのだろう。それなのに、流しそうめんにまずランクUP、その上サカズキは、なぜか流しそうめんだけでは飽き足らず、から揚げやらサラダやらあれこれ作る気満々である。

「みかんも忘れずに買わんとな」

「…なんでみかん?」

「知らか。水あめとからめて油で揚げたヤツが、あれの好物じゃァ」

うわー、ちゃんかわいい、と力なく笑ってクザンは肩をすくめるのだが、そこで「うげ」と素直に顔を引きつらせた。

数メートル先に、立っているピンクコートの男。他よりも随分と長身、どう見てもチンピラだろう風貌だが、どこかそうではないと思わされる、王者の風格。

オレンジ色のサングラスをかけたバカ鳥と呼ばれて久しい、ドンキホーテ・ドフラミンゴのご登場。

ズカズカと近づいてくるなり、サカズキを殴り飛ばした。

一応、商店街から少し離れた場所ではある。

近いから、ということでサカズキが裏道を使ったのがよかった。ガンッ、と、それはさすがに手加減されているのだろう、何も破壊することなく、ただサカズキの身体が壁に打ち付けられた。

「って、え、何してんのサカズキ!!?よけられるでしょ!!」

自然系の能力者なら、あの程度の攻撃は身体を変化させてしまえば、逆にダメージを与えられるはず。ドフラミンゴとてそれくらいわかっているだろうから、殴りにかかるなどどんな無謀か。
しかし、サカズキはその身であっさり殴打を受けて、ずるり、と壁に寄りかかる。

「フッフフフフッフフフ!!聞いたぜ、あいつが怪我したそうじゃねぇか…!!」
「……」

サカズキは何も言わず、ぐいっと、口から出た血を拭う。帽子の影に隠れた眼は見えぬが、クザンは眉を寄せた。

「ハイハイハイ、ストップ。こんなところで七武海と大将が女絡みの喧嘩なんて醜聞にしかならないでしょ」
「黙れ、てめぇは関係ねぇだろ、ひっこんでな。青キジ」
「サカズキがケガして帰ってきたらちゃんが泣くってことくらいわかるだろ」
「クザン、余計なことを言うな」

だが効果はあったよう、ドフラミンゴが忌々しそうに鼻を鳴らしはしたものの、すっと、殺気を収めた。

「で?容態はどうなんだよ」
「安静にしてれば大事ないでしょ。今はおうちでお留守番。今日はサカズキがリノハのためにご飯作るから楽しみに待ってんだよ」
「おい…あんなことがあったってのに、あいつ一人で残したのか」
「見張りは立ってるから心配ないって」

なぜクザンがドフラミンゴの相手をせねばならぬのか。いろいろ疑問はあるのだが、しかしサカズキがパンパン、と何事もなかったように服の汚れを払って立ち上がっているので、安心した。

それで、サカズキに近づいて殴られて赤くなっている顔を見る。は気付くだろう。心配そうに眉を寄せる。そういう顔をクザンは見たくなかった。サカズキだってそうだろうに、殴られたのだ。

「自分が許せないんだったら、を思いっきり甘やかしてやりゃいーじゃん。そういう不健全な方で自分痛めつけるのはよくないと思うけどねぇ」
「貴様には関係なかろう」

心配しているのに、この仕打ち。クザンはただため息を吐くしかない。を守れなかった、そのことでサカズキが暗に責任を感じているのは、まぁ、気持ちはわからなくもないが、しかし今回は不可抗力というか、なんというか。だが、「しょうがなかった」などサカズキの辞書にはない。何もかもからを守りたいと本気で思っているのだ。が守られないと、解っているのに。

「フッフフフ、次はねぇぞ。もし、今度そんなことがあったら、俺があいつを貰う」
「わしから離されたらあれは泣き暮らすだけだ。それでもいいのか」
「頼むからここで喧嘩すんなって」

なんと言うか、ドSの頂上決戦のような雰囲気になってきてクザンは呆れた。それで、やれやれと、二人に頭を冷やせという意味で当たりに冷気を漂わせると、サカズキがくるり、と踵を返した。

が待っちょる。貴様の相手なぞしちょる暇はない」
「フフフフフ、逃げるのかよ」
「妻を、優先する。それだけじゃァ」

ハイ、いま思いっきり「妻」と念を押していいましたよこの人。

あきらかに嫌がらせです。どう聞いても、嫌味です、とクザンは突っ込みを入れたかった。

見ればドフラミンゴ、ちょっと凹んでる。

世界がひっくりかえったとてがドフラミンゴを「ぼくの愛しい旦那さま」とはにかんで言うようなことはない。

それがわかるからこそのダメージである。

ちょっとばかしドフラミンゴに同情したくなった。まぁ、明らかに余計なお世話だろうから言わないが。

それで、そのままさっさとサカズキが言ってしまうかと思いきや、やおら肩越しに振り返ってポツリと一言。

「……貴様も呼んでやる。ついてこい、海の…汚点」

汚点ってそこまで!!!?と突っ込むよりも、その前に、あのサカズキが、あの、DOエス☆が、同僚+安全牌+ヘタレ属性ありのクザンならともかく、愛☆が持病と化した、何があっても飽きらめません勝つまでは!というようなドフラミンゴを、自宅に誘うとは…!!!

「なんじゃァ、クザン、その顔は」
「いや…どういう風の吹きまわしかと」
「フッフフフフフ、あいつに会えるんだったら罠だろうがなんだろうが構うもんか」
「罠など張るか。かなり癪だが、それでも貴様の顔を見れば、あれも……一ミクロンくらいは喜ぶだろう」

サカズキさん、今回のさんが怪我をした件、随分と堪えているようです。
身構えていたドフラミンゴもそれに気づいたか、拍子ぬけしたようにぽりぽりと頭を書きながら、口を開いた。

「例の、身の程知らずだが」
「犯人の男か」
「あぁ。そいつの妹が奴隷になったっつー話だ。いろいろ調べさせた。そいつらの親が海賊やってんだそうだ。必要なら解放させてやってもいいぜ?」
「あれが望むなら、じゃろう」

外道と名高いドフラミンゴの、基準はそこである。が望むのなら、なんだってする。そういう男をクザンは何人も知っているが、本当に、何もかもをかなぐり捨てて「そう」するのはドフラミンゴくらいなものだ。

さて過保護の代名詞のようなサカズキはどうするのか、と観れば、目を細めて少し思案していた。

「あれのことだ。もう犯人の男の顔さえ覚えちょらんじゃろうのう」
「フフフ、犯人の男は世界の法の通りに処される、なんつー話はどうせ耳にも入れさせねぇんだろうな。フッフフフフ」
「あれが民間人のようなものになったところで、世界の法は変わらん。あれを傷つけたものには報いを。例外は認めん」

の耳に入ったところで、どうということもなかろうが、わずかでも気にされては困るものだ。そう判じて、サカズキはには徹底して、何がどうなったか、は告げない。クザンもそう口止めされている。

全く、与えられた水だけをありがたそうにソロソロと頂くその状況、なぜは我慢できるのかとクザンは疑問だ。それが全て愛だから、と言ってしまうのはなんだか違う気もする。しかし口出し、できるのならとっくにしていて、結局のところ何も言わないのだから、つまりはそういうことなのだ。




*



おや、と、が示した反応は、それだけだった。

サカズキとクザン、それにドフラミンゴの三人があの後仲良く(あくまで喩え)八百屋やら魚屋やらを回って、最終的には竹をゲット、サカズキの満足の行くまでいろんなものを買い占めた。

それでの待つ家にと帰宅。
二人+一人を迎えたは、サカズキの後ろにいるドフラミンゴを見てもさして驚かなかった。

「フッフフフ、もっとこう、派手に歓迎してくれても構わないんだぜ?」
「サカズキといるってことは、サカズキが許可したってことでしょう。ならぼくに異論はないよ」

きっぱり言い切ったに、ドフラミンゴ、あれ?歓迎されてるのになんでこんなにダメージがあるんだ?などといろいろ思うことはあるらしいが、しかし の元気な姿を見て一通りの殺意はおさまったようだ。

「見舞だ。受け取れよ、フフフ」

そしてひょいっと、ここまで運んできた段ボールを一箱ドン、と置く。買出しのものとは別にドフラミンゴがあらかじめ用意してきたものだ。手土産持参なら本当に歓迎してあげるよ、とさりげなく外道なことを言いながら、はひょいっと段ボールをのぞきこむ。

「林檎にチョコレートに梨に桃。それと、いろいろあるねぇ」
「お前が好きだってモンを詰め込んできた。相変わらず物の贈り甲斐のねぇモンばっかり好みやがって」

金銀財宝詰め込んだ宝箱よりも、八百屋で売っている一個100ベリーのリンゴを喜ぶ。ドフラミンゴは口で言うよりは楽しそうな顔で言う。

「ふふふ、ありがとう。うれしいよ」

は素直に礼を言って、それで小首をかしげた。

「ところで何しに来たの」
「フフッフ、そう聞くか。お前どう考えても見舞だろう」

あのドフラミンゴに突っ込みを素で入れさせるあたりである。
それを遠巻きに見ていたクザンは、何だこの微笑ましさ!!?と、普段サカズキとリノハの、のろけかR指定かわからないようなやり取りに慣れていたため、ものすごく新鮮な思いだった。

それで、先ほどからとドフラミンゴを引き離すわけでもなく大人しく買ってきた笹を程よい大きさに切って流し台を作るサカズキに視線を向けた。

「なんじゃァ」
「いや、邪魔しないのかなぁって」
「あれの前で争いごとはせん」

ハイ、普通にのろけられましたよ今。

クザンはどの口が言うのかと顔を引き攣らせ、自分も竹を割った。

「流し素?、楽しそうじゃないの」
「貴様は只管流せ」
「あのさ、俺の人権ってどうなってんの?」

ちょっとここ最近気になっていることを聞けば、サカズキがふっ、と眼を細めて
鼻で笑い飛ばしてきた。

クザンは、本当に友達辞めてやりたくなったが、そうなるとにも会えなく
なるので、まだもうちょっとは、耐えてやろうと、そう心を慰めることにした。







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